海外旅行で一番気になるのは現地の物価。昨今の円安により、海外旅行は益々高嶺の花となりつつある。そんな中、ヨーロッパでは比較的物価の安いとされるポルトガル。しかし、近年の観光地としてのポルトガルの人気上昇、外国人による不動産の購入、日本円の対ユーロの為替相場での歴史的な円安で、ポルトガルはこれまでのような物価の安い国ではなくなりつつあるのが現実。
暮らすように旅するポルトガルで体感した現地の物価をレポートする話。
ポルトガルのスターバックス指数は?

旅行先の物価調査では、マクドナルドのビックマック指数を参考にするのが通説だが、ファーストフードはあまり食べないため、世界的なコーヒーチェーンのスターバックスのコーヒーを用いた指数で代用。
ポルトガルの首都リスボンでのアメリカーノコーヒー、トールサイズは2.7ユーロ。リスボンに滞在した2025年6月下旬の為替レートは1ユーロ=約169円。直近の2025年11月中旬には1ユーロが180円台の水準にまで円安が進行している。
旅行した時期のレートで計算すると、約456円。ポルトガルのスタバはデカフェを注文しても追加料金がかからないのが嬉しいポイントとは言え、500円近いコーヒー代金は、日本とそれほど変わらない。
ポルトガル政府の発表によると、最低賃金は月870ユーロ。税金や社会保障費の負担は考慮しない場合、最低賃金でスターバックスのアメリカーノ、トールサイズは約 322杯 飲める計算。
政府の官報では、労働時間は1日8時間、週40時間が上限と定められている。1カ月、30日のうち週末の土・日曜日を休み、22日間働くとすると、労働時間は176時間。最低賃金での時給は約4.9ユーロ。つまり、スタバのアメリカーノ、トールサイズにありつくためには、ポルトガルの最低賃金で働いた場合、33分で1杯となる。
日本のスターバックスの場合、アメリカンカーノはトールサイズ475円。最低賃金は都道府県ごとに異なるので最も高い東京の場合(1,226円)では約23分、最も低い高知、宮崎、沖縄(1,023円)では約27分、それぞれコーヒーを手にするために働かなければならない。
スターバックス指数上は、まだまだ日本の方が購買力がある計算にはなるが、1杯の値段だけに注目すると、ポルトガルはもはや物価の安い国ではなくなってきている。
コーヒーだけに限るならば、安く浮かせるには、ローカルなカフェやレストランでエスプレッソを注文すること!概ね1ユーロ前後で楽しめるので、まだまだこちらは割安。
海外投資マネーによる不動産価格の上昇

年間を通して天気に恵まれるポルトガルは、移住先としても人気の国の1つ。オランダやスペインなど他のヨーロッパ諸国と同様、ポルトガルにも投資により居住権が得られるゴールデンビザシステムが存在する。
海外からの投資を呼び込むには魅力的な制度である一方、地元の不動産価格の高騰、外国人による不動産購入、民泊への転換で住宅の供給不足が発生するなどの副作用もあり、オランダやスペインはゴールデンビザシステムの廃止を決定。
今回のポルトガル旅(サンティアゴ巡礼中)は、コインブラとポルトの民泊に滞在したが、ビジネスオーナーで、部屋はすべて民泊用。地元の人との交流は民泊では一切なく、前回ポルトガルを訪れた2018年とすっかり様変わりしてしまった。
さらに、外国人の投資家による不動産購入で、その価格も引き上げられ、リスボンでは日本円で1億円を裕に超える物件が散見される。その価格の上昇が民泊の価格にも反映されているのか、リスボンの中心部では5,000円を切るような選択肢は皆無に等しい。
年間を通して温暖で、晴れ間が広がるポルトガルで、治安もそれほど悪くない点を考慮すると、その不動産価格は妥当性を帯びているような気もしないではないが、最低賃金は870ユーロでは、庶民にとってのマイホーム取得は非現実的なものになりつつある。
立ち飲みはまだまだ庶民の味方

中心部は観光客で賑わうリスボン。当然ながら何から何まで観光客プライスで物価が上がっているような感覚。しかし、食べないわけにはいかない。
ランチメニューならお手軽に食べられるだろうと、街中を適当に歩いていたら、クラシカルな雰囲気のよさそうなレストランのテラス席が空いていたので、そこで昼食にしよう。
日替わりメニューはないということで、メニューを開くと結構なお値段。日差しもきつく、すでにテーブルに座った途端、汗が噴き出している。重い腰を上げて再びレストランを探すのは億劫になってしまったので、この日はこのレストランで食事を済ませよう。

選んだのはスープ、タラの揚げ物とレモネード。タラの一品にはご飯も付いてきたが、お値段は合計26.4ユーロ(=約4,500円) 円換算だと、ちょっといい夜ご飯並みの値段。

円安の影響もあるにせよ、ポルトガルももはやお手軽な旅行先ではなくなっているではないか。値段にバイアスをかけられたせいか、味は申し分ない。メインの揚げ物は上品なお味で、フライなのに、ギトギトした油っぽさが全くない。オリーブオイルで揚げているせいだろうか。
物価が安くなることはもう望めないので、せめて円安だけでもどうにかなれば、旅先の食事代もお財布に優しくなるのに…。
当然ながら地元のポルトガル人にとっても、このランチ代は決してお安くはない。テラス席はともかく、トイレを利用するために、レストランの中に入ると、室内のテーブルには、おめかししたお客さんがほとんど。ちょっと場違いなレストランに来てしまったのかもしれない。テラス席はサンダルでも OK だった。
もう少しローカルに飲み食いを楽しむには、街角のバーが手っ取り早い。惣菜パンやお昼時にはスープを提供してくれる場所もある。

通りすがりのバーからのスープの匂いに引き寄せられ、白ワインとエンパナーダを注文。4.2ユーロ(=約715円)
立ち飲みという形態ではあるが、とってもリーズナブルな印象。そのせいか、地元のお客さんで賑わっている。スープを呑んで、パンも食べて、ワインも飲めてこの値段は、まだまだポルトガルにも割安な側面が残っている証拠。
記憶に残るくらいの食事の味ではないけれど、手軽に食事を済ませたいときや、財布の紐を閉めたいときは、こうしたバーの食事は旅人の強い味方になってくれる。
7年ぶりの訪問となったポルトガルは、残念ながら以前のような物価の安い国という印象は薄れてしまった。世界的なインフレに加え、対ユーロでの円安の進行が主な要因だが、それでも、バーでの立ち飲みでは、まだ少し割安感も残っており、こうした場所も活用すれば、お財布にも優しい旅となる。
