暮らすように旅するカーボベルデ#3 サル島の“縄張り”

カーボベルデ

これまでの人生で一人たりともカーボベルデ人に出会ったことがなかった。カーボベルデの人口は50万人ほど。そのほか、世界各地にカーボベルデのディアスポラが存在するようだが、旧宗主国のポルトガルでも、数年間暮らしたブラジルでも出会う機会はなかった。

大西洋の島国への旅では、カーボベルデ人に出会うことも目的の1つ。ローカルな雰囲気を期待していたが、カーボベルデで最も観光地が訪れるサル島は、想像していたよりも国際色豊か。

小さな島を少し歩いただけでも、アジア人、白人、黒人、混血など実に人種のるつぼであることに気付かされる。ことビジネスの世界においては、それぞれの専売特許のような、“縄張り” にも似た構図が人種間で分別されているような印象を受けた。サル島でのビジネスの縄張りを人種という観点から紹介する。

小売りは中国人の独壇場

中国人が営む商店

大西洋に浮かぶカーボベルデ。その中でもサル島は、年間を通して雨が降らない気候のため、農作物はほとんど育たず。野菜や果物は他の島から輸送されてくる。

島には海外資本の大きなスーパーマーケットは、まだ進出していない様子で、公営の市場では、他の島から運ばれてきた野菜や果物をカーボベルデ人が販売している。

一方、日用品や生鮮食以外の食品関連の商品を取り扱う商店は、中国人の独壇場。世界の人口の5人に1人は中国人とは言え、アジアから遠く離れたこの小さな島国までたどり着いてビジネスを展開する起業家精神には頭が上がらない。

世界中に張り巡らされた中国人の物流網が、大陸から離れたこの島国もカバーできるのだろう。英語はおろか、ポルトガル語も怪しい中国人の店主たちだが、言葉よりも、商いのセンスの方がはるかに重要。たくましくカーボベルデ人やセネガル人の従業員に指示を出しながら店を切り盛りする姿に圧倒される。

観光業・レストランは欧米資本が主流

ドイツ資本のロビンソンのリゾートホテル

年中温暖な気候にほとんど雨の降らないサル島は、美しいビーチを求める欧米人を惹きつける。ビーチ沿いには、ヒルトンやロビンソンといった欧米資本のリゾートホテルが立ち並ぶ。

フランス人が経営するカフェのクレープ

地元にも雇用創出をもたらした観光業、オーナーは欧米資本で、従業員はカーボベルデ人というのが典型的な構図。ツアー会社やレストランなど外食産業も、欧州からの移住者がビジネスを展開し、カーボベルデ人を従業員として雇っている。

露天商は意外にもセネガル人

サル島の中心地には、あちこちに民芸品を販売する露店が立ち並ぶ。外国人なので英語で話しかけられ、値段交渉のためにポルトガル語に切り替えると、いまいちコミュニケーションがスムーズにいかないことが多々。

英語もポルトガル語やクレオール語訛りという感じでもない。それもそのはず、彼らの多くはセネガル人という。そういわれてみれば、民芸品の一部はセネガルっぽく見える。

この点に気付かずに、カーボベルデでセネガルの土産物を購入する観光客が一定数いるだろう。

観光業が栄えるサル島に仕事のチャンスを求めてセネガルから移住してきた彼らだが、この島でビジネスを営むヨーロッパ人からの評判はあまりよろしくないのが実情。従業員として雇用する場合は、セネガル人よりもカーボベルデ人を雇いたいというのが彼らの本音で、仕事にありつけなかったセネガル人の一部が露天商に流れている構図なのかもしれない。

島の基幹産業の漁業はカーボベルデの縄張り

漁の収穫を引き上げる

かつては塩の精製で発展したサル島は、現在は観光業が主要な産業。しかし、作物が育たない島では漁業は不可欠な仕事。サンタマリアビーチに伸びる桟橋では、漁を終えた船が次々に浜に戻ってきて、その日の収穫が水揚げされる。

ここから、レストランなどに卸されるためだろうか、仲買人を中心に、収穫量と価格の仕分けが進む。彼らの話す言葉に耳を傾けると、クレオール語に時折ポルトガル語が混じっている。

桟橋では観光客は写真を撮るほか、一般客として魚を購入することも可能。その場で魚の下処理もしてもらえる。その場で働く人たちの邪魔にならない程度に、何人かと話をすると、漁業は生活には欠かせず、カーボベルデ人の生活には切り離せないという。

日常生活では、ビジネスに関しては、中国人のようなアグレッシブさを見せないカーボベルデ人だが、漁業に関しては、彼らの誇りが垣間見える一面だ。

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