約1カ月に及ぶポルトガルの首都リスボンからスペイン・サンティアゴ・デ・コンポステーラまでの634km に及ぶ巡礼を終えて、巡礼旅の振り返りと、巡礼が人生に与えたインパクトについて書き残しておこう。
声を上げれば救いの手が差し伸べられる
巡礼で最も辛かった道のりはと尋ねられれば、迷いなく5日目のナセント・ド・アルヴィエラからファティマまでルート。
この日は、出だしが好調だったにも関わらず、目印を1つ見逃したただけで遭難のピンチに。40度を超える気温の中、手持ちの水を切らしてしまう。辺りには水を購入できる店もなければ、水道水もない。
偶然、森で作業するおじさんに声をかけると、ペットボトルを1本分け与えてくれた。この経験に留まらず、巡礼中は、何かとピンチに見舞われる。
その時は、声を上げて助けを求めるに尽きる。声を上げなければ、困っているかどうかも周りからは分からない。助けてくれたのは、巡礼路沿いの地元の人のみならず、他の巡礼者も相互扶助の精神で、巡礼宿や道中で力強い味方となった。
判断力・選択力の鍛錬
正直なところ、今回の巡礼旅は、日々のルート設定などは綿密に計画を立てたわけではなく、行き当たりばったり感は否めない。
それ故か、状況によって自分で判断や選択を迫られる局面が日々訪れた。例えば、目の前のカフェで休憩するかどうか、たった1つの判断が、その後、その日の巡礼を左右することもあった。
巡礼の地図アプリを活用する前は、道に迷うこともしばし。その時に、早め早めに突き進むことを止めて、引き返す判断を下さなければならなかった。こうした判断や選択を迫られる局面が続いていくと、直感も鍛錬され、巡礼を通して、危機回避能力が向上したと言えるだろう。
準備がすべて

初めての巡礼の誤算は、巡礼開始早々に足のマメや靴擦れに見舞われtこと。前者は比較的早く、数日で完治したものの、後者は巡礼を通して、痛みに悩まされた。
まずは、ルートの難易度に沿って、履きなれた靴で巡礼するのに限る。
まっさらの靴ではなかったが、ハイキングで時折、使用していた靴で、使用する頻度は少なかった。反省点としては、出発前に、巡礼で使用する靴で、数時間歩く練習をして、足をもっとなじませておくべきであった。
出だしで足を負傷してしまうと、消毒や保護など手入れにも時間がかかる上、なにより痛みを抱えて巡礼を継続するのはこの上なく辛い。
装備以外の準備では、天気予報のチェック。夏本番前の6月にスタートした巡礼だった為、暑さに対して鈍感だった。近年の異常気象は欧州も例外ではなく、熱波到来による猛暑に見舞われてしまい、その上、天気予報をチェックしていなかったため、高温の中、アスファルトの照り返しを受けながら巡礼する羽目に。
熱中症や脱水症状のリスクと隣り合わせとなる夏の巡礼では、事前に天気予報をチェックして、気温が上昇する前の早朝に出発をするか、猛暑日は休息日とすることも必要になってくる。
歩く距離感の変化

巡礼前は、地図で場所を調べた際、1㎞、せいぜい 1.5㎞ くらいまでだったら、公共交通機関や自転車を使わずに歩こうというマインドセットだったが、毎日平均 20km 、時には 30km を超える距離を歩いた巡礼旅の後、その距離感のマインドセットが大幅に伸びた。
2-3㎞ の距離であれば、歩くのも全く苦にならなくなった。距離感に加え、移動する際に、公共交通機関を調べる前に、まず歩けないだろうか?というマインドセットになったのが巡礼旅による大きな変化。
健康維持のモチベーション
今回の巡礼は決して順風満帆ではなく、巡礼なんてもう懲り懲りと思った局面はなかったが、無事にゴールまでたどり着けるだろうかと、弱気になったことが多々あったのは事実。それでも、サンティアゴ・デ・コンポステーラまでたどり着けた時の達成感は何にも代えがたかった。
例えば100mを9秒台で走ることは、自分の能力では不可能と言い切れる。しかし、歩き続けるだけならば、たとえそれが何百kmの道のりでも、いつかはゴールにたどり着けるという成功体験を今回の巡礼旅を通して得ることができた。
正直、毎年、異なる巡礼路を歩きたいとは思わない。しかし、2,3年に1度、あるいは、オリンピックと同じ周期くらいの頻度なら、また挑戦したと思う。
もちろんその為には、日々の健康管理が重要となるので、巡礼を通して、健康を維持するモチベーションがさらに高まったのは大きな収穫。
言葉が話せる喜び
これまでの南米での駐在経験から、スペイン語とポルトガル語が話せる状況で、今回の巡礼を実施。ポルトガル、スペイン両国で、コミュニケーションは全く問題なく、言葉が通じないことで生じるストレスもゼロ。
それどころか、ポルトガルでもスペインでも現地の言葉が話せる日本人が珍しいのか、たくさんの地元の人と交流することができた上、言葉の壁がない分、他の巡礼者ともすぐに打ち解けることができた。
次回、巡礼にチャレンジするとすれば、フランスを通るルートを選択したいと考えている。その巡礼を充実させるためにも、万年、初級状態のフランス語に本腰を入れて、レベルアップしなければならないというモチベーションを得ることができた。 巡礼者の中には、巡礼を通して将来の伴侶に出会ったり、悲劇を乗り越えたりするケースがある。残念ながら、そのようなドラマチックな出来事は起こらなかったけれども、それでも、巡礼を通して、今回整理したような変化や新たなモチベーションが沸いてきたことは、これからの人生の「道しるべ」を巡礼を通して得ることができた証拠でもあるだろう。

