いよいよ最終盤に突入したサンティアゴ巡礼。日に日に増える巡礼者の群れを避けるため、毎日のルート選択に余念がない。巡礼アプリGronze.com のモデルコースを参考にしながら、巡礼者が宿泊しそうにない地点を目的地に定める。
巡礼26日目は、アルカデからブリアージョスまでの 29.2㎞ のルートに挑む。30km近い長丁場を歩くのもこれが最後。巡礼者の大群を避けながら、巡礼の最後を味わう。
トラックが巡礼路を完全封鎖

イギリス人青年とだけのドミトリーシェアなので、熟睡できることを期待していたのに、午後10時過ぎに彼の電話が大音量で鳴り起こされる。全く迷惑な。
いびきをかく巡礼者ではなかったが、今度は午前4時くらいにトイレに行き、また目を覚まさせられる。
前日に午前5時30分にアラームをかけることを通知すると、その時間は起きているので問題ないという事だったが、思いっきりまだ夢の中のイギリス人。
少人数の巡礼者とサイズ感が適切なキッチン。お湯を沸かして紅茶、ヨーグルト、フルーツ、さらに前日の残りのレンズ豆のサラダで朝食。これで午前中の2,3時間は空腹から免れるだろう。エネルギー満点で出発。
まだまだ夜が明けない午前6時20分に巡礼宿を後にする。この日の道のりは、まずは前日に訪れたあの Ponde Medieval de Pontesampaio を越えて先を進まなければならない。方向音痴は自覚しているが、前日に歩いたはずの道に迷う。まだ暗いせいか、景色が全く違うように見えた。

迷いながらも何とか Ponde Medieval de Pontesampaio に到着。暗闇と街灯にうっすらとその姿が浮かび上がる橋は幻想的。前日に橋の写真撮影は済ませていたので、さっさと橋を渡り切って先を急ごう。
すると、まだ朝早いというのに、橋の上で地元の人や他の巡礼者が立ち往生している。一体どうしたのだろうか。
どうやら、橋の右手から来たトラックが右折を試みたところ、曲がり切れずに立ち往生している。そのせいで、橋の出口が車体で完全に封鎖されて先に進めない!
この日は 30㎞ 近い道のりを歩かないといけないのに、こんな出だしで時間をロスしている場合ではない。行く手を阻んでいるのは大型トレーラーなので、車体の下にはすり抜けられる十分なスペースがある。先にバックパックを投げてから、体をくぐらせようとしていると、周囲の人に危ない!とものすごい剣幕で制止される。
時間は惜しいが、ここは地元の人の言う事に耳を傾けよう。これはもやは自分でコントロールできる事態ではないのだ。運転手や周りにいた地元の人たちがトレーラーと橋の距離などを入念にチェックして車が動き出す。少々強引に橋に車体を擦りながら方向転換をしていく。正気か?これは大切な歴史的建造物だぞ!破損させないように慎重に車を動かせという思いと、早くこの封鎖状況を解放してほしいとの思いが交錯する。
若干、鈍い音が周囲に響き渡る。恐らくトレーラーの車体と橋の一部が接触した模様。しかし、その間に完全封鎖されていた状態から人が通れるスペースが空き、続々と人が通り抜けていくので後に続く。
朝一から波乱の幕開けだが、思ったより時間のロスは少なくで済んだのが幸い。橋の上では3人の巡礼者がいたが、すぐに置き去りにして Pontesampaio の町を抜けると、巡礼路は山道に続く。まだ夜は完全に開けていなかったが、進む道は開けたスペースだったので、足下をチェックするのには十分な明るさがすでに確保されていた。

この日の朝空には、虹のように大きなアーチを描くような雲が空一面に架かり、時間の経過とともに、その線がどんどん大きくなっていき、しばらくこの雲を眺めながら巡礼路を進む。
写真では伝わり切れない迫力に、「海辺のカフカ」の空から魚が降ってくるシーンを思い出し、この一筋縄の雲からも何かが落下してくるような幻想が浮かぶ。
本場スペインのチュロス

O Pobo 村に入ると、巡礼路を示す矢印が2つ別々の方向を指している。一体どういうこと?この日は30㎞ 近く歩かなければならないので、道に迷うのは何としても回避しいたい。
慎重に事情を理解すべく、地図アプリを開いてチェック。

どちらの道も最終的には Pontevedra で交わるようだ。そうなると、どちらの道を選択すべきだろうか。しばらくスマホとにらめっこをしていると、犬の散歩に来ていた紳士が「Spanish?」と、話しかけてくれた。
スペイン語でどちらの道を行くべきか決めかねている旨を説明すると、一方は、一般道沿いの巡礼路で距離が短く、もう一方は森の中を進む分、距離は少し長くなるが車が通らず静かに歩けるという。距離が長いのは気になるが、このおじさん曰く、それほど大差はないという。
その言葉を信じて、森の中を歩く巡礼路を選択。

ここ数日の大名行列のような巡礼者の数はいづこへ。なんという静かな巡礼路だろうか。他に誰1人他の巡礼者がいない。逆に、こうも巡礼者を見かけないと、道に迷っていないか不安にもなるが、おじさんのお墨付きなので間違いはないだろう。
ジョギングやウォーキング、犬の散歩をする地元の人には出会ったが、結局他の巡礼者を見かけることはなく、最後に道案内をしてくれたおじさんとすれ違い、素敵な道を教えてくれたことに感謝を述べて、Pontevedra の街へ。
丁度、出発から3時間が経過していたので、休憩のタイミングにはピッタリ。ベーカリーをググると巡礼路沿いにヒット。しかし、信号待ちをしている間に、目の前にカフェが現れたので、迷わず入店。

パン・オ・ショコラとカフェオレを注文したら、本場スペインのチュロスとパンがサービスで付いてきた。パン・オ・ショコラはサクサク感ゼロ。やっぱりパンはフランスに限る。
チュロスはそのまま食べてもよし、周りのお客さんは飲み物のカップに浸けてから口に運んでいる。コーヒーの香りとチュロスの甘味がマッチするというわけだ。サービスで頂いたチュロスの方がお金を払って購入したパン・オ・ショコラより美味しかったというオチ。店の雰囲気の割にはお値段はリーズナブルで3.4ユーロ(=約578円)コスパは素晴らしく、体も休めて充実した朝のカフェ休憩時間。
巡礼者の嵐

この Pontevedra という街では1泊することも考えていた。というのも、コロンビア人の友達の元彼女がこの地に住んでいるということで、是非会っていけ!と、巡礼のTo Do リストに入れられた。
その彼女はベネズエラ人なので、ベネズエラで暮らしたことがあるなら、絶対に話が盛り上がると…。短絡的な発想だが、巡礼中にその彼女とワッツアップメッセージでやり取りをすることになり、おおよその巡礼の見通しから、到着予想日を何度かアップデート。しかし、彼女の方に旅行の予定が入り、出会うことは叶わなかった。
ありがたい提案だが、巡礼中に他の予定を入れるのはそれほど簡単ではない。いくらその街を通過すると言っても、巡礼路から大きく外れた郊外に住んでいるとしたら、会うのも大変。そもそも会ったこともない相手だったので、それほど惜念の思いは沸かず。

カフェで休憩するまでは、スタート時の橋の上でみかけた3人以外、他の巡礼者を見かけず、静かに巡礼を楽しんでいたのに、どこから湧いてきたのか、ここから先は巡礼者だらけ。
おまけに学校の課外活動だろうか。観光バスに数百人単位の学生たち。その数に圧倒される。カフェでの休憩前の静けさが幻のようだ。
こうなると、追い越しても追い越しても、まだ先には次々と巡礼者が現れ、心理的な疲労が募る。
この日の目的地までは残り1時間ほどを切っていたが、宿泊する巡礼宿の周辺には何もなさそうだった上、1回目の休憩から3時間ほど歩いたので、再び一服。巡礼者向けのカフェしかなく、店内は大盛況。

生絞りのオレンジジュースは歩き疲れた体に染み渡る。小腹を満たすためのタコのパイ?のようなものを注文したが、タコの味わいがあまり感じられず、感動もそれほどなし。

賑やかな巡礼カフェを足早に去り、この日の巡礼宿へ。
密を回避してマイナー巡礼宿へ

巡礼アプリ Gronze.com の推奨ルートは、Pontevedra から Caldas de Reis までの道のり。この日はPontevedra から13km ほど手前のアルカデからスタートしたので、Caldas de Reis から4.8km 手前のバリアージョスまで。
巡礼者の密を回避する作戦だが、予想通りバリアージョスで宿泊する巡礼者の数は圧倒的に少ないようで、多くは推奨ルート通りCaldas de Reis まで進むようだ。
この日の巡礼宿 Albergue de peregrinos de Briallos は、ひっそりとしていて、受け付けとレストラン・バーを1人の従業員で回している。宿泊料は10ユーロ(=約1700円)とリーズナブル。クレジットカード払いは不可。

使い捨てのベッドカバーと枕シーツは、巡礼終盤になっても好きになれなかったが、宿自体は清潔で、整理整頓が行き届いていた。おまけにこの宿の嬉しいポイントは洗濯機の利用が無料。
いつもは手洗いで洗濯を済ませるが、この日はその労働から解放され、シャワーを浴びて昼寝をしている間に洗濯が完了。素晴らしい。
宿ではヴィアナ・ド・カステロで出会ったポーランド人のペアと再会。足には痛々しいほどのテーピングが巻かれ、足を引きずって歩いている。巡礼も最終盤、巡礼者の中には、体の限界に近付いている人もいるようだ。
村の外れにある巡礼宿から近くのレストランまでは歩くと距離がかなりあった上、あいにくの空模様になってしまったため、巡礼宿に引きこもる。宿にはレストランが併設されており、リーズナブルに夕食も頂ける。



ガルシア地方のキャベツを使用したスープ前菜に始まり、メインは豚肉のシチュー。どちらも家庭料理といった具合で、なにより胃に優しいメニューがありがたい。デザートのカスタードをで締めて、腹八分目の夕食。
レストランでスイス在住のフランス人巡礼者と少し談話。スイスから巡礼をスタートさせてもう数カ月以上、巡礼の旅を送っているという。3週間余りで、早く巡礼を終わらせたいと思っているこちらとは雲泥の差。
数カ月と言っても、何度かブレイクを入れて、家に戻って、巡礼を再開しているようだ。欧州がベースならばそのような巡礼スタイルも可能なのだろう。フランス人巡礼者とのおしゃべりでこの日は終わり、早めに就寝。
