これまでの孤独な巡礼旅から一転、おしゃべりなスペイン人グループとの巡礼が続く。傘のアートが街を飾るアゲダを後にして、アルベルガリア・ア・ノヴァまで 22.3km の巡礼路。巡礼の歩き疲れは何のその、途切れないスペイン人たちの話に圧倒されながらも、巡礼旅の中盤を駆け抜ける。
時間にルーズはステレオタイプ?手際よいスペイン人
巡礼アプリ Gronze.com での推奨ルートは、アゲダからアルベルガリア・ア・ヴェーリャまでの 15.8㎞ だが、さすがに高低差のそれほどない巡礼路では、この距離は1日の移動としては物足りず。その先のアルベルガリア・ア・ノヴァまで目指す。
巡礼宿ではなかなか熟睡できない日々が続いていたが、前日は程よい肌寒さに毛布にくるまりながら寝落ちし、ぐっすりと眠ることができた。夜中に猫が部屋の中に侵入して、角の机に置いてあったリーフレットを荒らしていたのにも気が付かず、午前3時に出発したイタリア人の物音にも睡眠を妨害されず。
この宿も、大きな冷蔵庫と近くにスーパーがあったおかげで、果物、ヨーグルト、スムージー、パンとフルコース朝ごはんを頂き、巡礼に向けてエネルギーをチャージ。
まだ午前5時というのに、スペイン人たちは朝からワイワイ賑やか。静かに朝を迎えたいこちらとは対照的。おしゃべりが止まない彼らは、どうせだらだらとして出発時間がずれ込むといと思いきや、出発準備が完了している。一緒に出発するのかどうか尋ねられる。
まだ、足の消毒などの処置もしないといけないので、先に行ってもらうことに。スペイン人は時間にルーズなことが多いので、のんびり朝食を食べていたら、案外、みんな手際がよくて、さっさと準備を済ませて巡礼宿を後にしていった。
巡礼旅もほぼ中間地点に到達

足の痛みは相も変わらずだが、この日も気合を入れてトレッキングシューズに痛む足をねじ込み出発。アゲダの街を後にして Pedaçães 村に入ると、サンティアゴ・デ・コンポステーラまで残り 330km の表示が飛び込んでくる。出発地点のリスボンから最終目的地までは 600㎞ ほどの距離だったので、およそ半分くらいまで進んできたことになる。
笑いあり、涙あり、素敵な一期一会ありと、ここまで濃厚な巡礼旅を続け、ようやく中盤に差し掛かったという充実感とともに、まだ半分?あと2週間近くも歩き続けなければならないのかという気持ちが文字通り半分を占め、気持ちの面も先行きの長さとこれまでの達成感の中間点にいるよう。

いかなる気持ちの持ちようでも、先に進まなければならない。ラマス・ド・ヴォウガ(Lamas do Vouga)に入ると、Parque da ponte medieval do marnel の中を巡礼路が続く。青空が広がっていれば印象はことなるかもしれなが、曇空のどんよりした雰囲気の中、水面に反射する橋や植物は、モネの世界観のよう。

公園の景色に見とれて写真を撮り続けていたせいか、先をいくスペイン人たちとの距離がなかなか縮まらない。
出発から1時間30分ほどして、ヴォウガ川に架かる橋の上でようやく追いつく。朝は低血圧で、おしゃべりに勤しむより静かにしていたいので、しばらくは一人で歩いて、頭も体も起き始めたころにスペイン人たちと合流するのが丁度いいタイミング。
いつものように2時間ほど歩いて、最初の休憩を取りたいところだが、進行方向から少し外れたところに1軒のカフェがあったくらいで、なかなか休憩できるような場所が見当たらず。それどころか、目の前の道なりは、森の中へと続き、カフェが存在する可能性はゼロに近い。
出発から3時間ノンストップ

結局、出発から最初のカフェが現れるまで3時間、ノンストップで歩き続ける。このスペイン人たちの体力はなかなかのものだ。ようやくたどり着いたカフェで、コーヒーとチョコレートのかかったミニエクレアのようなパンを頂く。
いつもは出発から2時間ほどで最初の休憩を取るのに、この日は、カフェに巡り合えなかったこと、曇空が広がっていたので体力が少し温存できたので、3時間ぶっ通しで歩くことができた。すでに巡礼アプリが推奨ルートの目的地に設定しているアルベルガリア・ア・ヴェーリャに到達している模様。よって残りは 6.5km ほど。
巡礼路を歩いているときもそんなに話すことある?というくらい、会話の途切れないスペイン人たちのコミュニケーションには驚かされることばかりだが、カフェで一服中もおしゃべりが止まらない。いつ出発するのだろうか?と思うくらい。
少なくとも、この日は、すでに3時間ノンストップで歩いてきた上、残りの距離も、この日のルートの3分の1ほどなので、急ぐ必要は全くない。
ようやくおしゃべりに区切りがつき、各自ストレッチを施して、カフェを後にする。

カフェで休んでいるうちに青空が広がり、巡礼路は舗装されていない山道。砂埃が激しく、トレッキングシューズが瞬く間に色が変色しいたかのように汚れてしまう。

カフェ休憩からさら90分ほど歩くと、巡礼宿・ Albergaria-a-Nova に到着。まだ午前11時を回ったところだが、チェックイン可能という。後から振り返ってみても、サンティアゴ巡礼のポルトガルルートの良いところは、巡礼者の数が少ないせいか、アーリーチェックインが比較的柔軟。

ドミトリーは12ユーロ(=約2,000円) 部屋はこじんまりとしているが、中庭のスペースには、小さなプール、ハンモックもあり、巡礼者がリラックスできるような気配りのほか、ウェルカムドリンクとしてポルトワインで出迎えてくれる。


アルベルガリア・ア・ノヴァ村は小さく、商店やレストランも少ないため、宿では食品や日用品も販売している。チェックインを済ませたら、シャワーを浴びてランチへ。
巡礼旅No.1の肉料理との出会い

この地方の名物料理の1つが子豚の丸焼き。残念ながら前日は試すことができなかったので、この日は宿から徒歩圏内の85歳のおばあさんが営むというノスタルジックな雰囲気の漂うレストランへ。
幹線道路の目の前に位置するレストランは、大きなトラックが通るたびに、店内を地震が襲ったかのよう揺れに見舞われる。室内の明りもLEDではなく蛍光灯。時が止まった感じ。
一緒に巡礼するスペイン人は誰1人ポルトガル語を話せないので、アジア人の巡礼者がポルトガル語を操り食べ物をオーダー。なんとも誇らしげな気分。

まずはスープから。どんなに照り付ける日差しで外が暑くても、熱いスープで胃を労わってあげよう。野菜の素朴な味が染み渡る一品は店の雰囲気とぴったり。

スープとサラダの前菜を食べ終えると、フライドポテトと米が運ばれてくる。文字通り、山盛りの米。日本ではお米の値段が上がっているので、大盛の米をありがたく頂こう。

サイドディッシュのボリュームに目を奪われていると、メインの子豚の炭火焼が運ばれてくる。オレンジの付け合わせが、彩にアクセントをつけてくれる。
肝心の肉は、なんと柔らかいこと!余計な味付けはなく、肉そのもののジューシーさが口の中に広がる。しかし、しつこい脂っこさはなく、食べ応えはあるがあっさりした味わい。意外と白ワインとも合う。あっという間に一皿ペロリと平らげる。
大量の米とポテトを残すのはもったいないと格闘していると、さすがに満腹中枢がシグナルを出し始めたので、食事を終了。

さすがにもうこれ以上は胃に食べ物を運ぶことができないと思っていると、デザートが運ばれて来る。おまけに、巡礼者と分かるや、店の方がおもてなしとして、ポルトワインも皆に注ぎ始める。デザートは別腹と言いたいところだが、すでに満腹。
しかし、このおもてなしに応えるべく、食事の締めとして頂く。こんなけ飲んで食べて16ユーロ(=約2,700円)文句なし!この巡礼旅でNo.1の肉料理
そして何よりも、一緒に巡礼をしたスペイン人たちも美味しい物には目がないようで、いい食べっぷり。食に対する価値観を共有できるのは素晴らしい。
大満足でレストランを去る。

レストラン近くの商店は、90年代の社会主義国の小売店のような雰囲気。キラキラしていない雰囲気に浸る。
宿に戻ってからはさすがに食べ過ぎたので休憩後、洗濯を済ませる。
元シェフの巡礼者による夕食は?
日はまだまだ傾かないが、翌日以降も巡礼が控えるため、夕食を済ませて、早めに就寝しなければならない。
昼にボリューム、味わいともに巡礼旅 No.1 の肉料理で満足したので、それほど空腹感はなく。他のスペイン人たちも同じような状態で、軽くなら夕食を食べれるといったところ。
スペイン人巡礼者の1人、アルフォンゾは年金暮らしだが、なんと現役時代はレストランのシェフという。スペイン国内では料理のコンテストでの受賞歴もある彼が、皆のために夕食を作ってくれるようだ。

スーパーで卵をたくさん買っていたので、トルティーヤか何かを勝手に期待する。

出来上がってきたのは目玉焼き。シェフが作るという料理に期待し過ぎていたのかもしれない。思わず「朝ごはんかーい!」とツッコミを入れたくなった。事実、お腹は一杯に近かったので、軽めの食事をリクエストしていた。
チーズやハム、お菓子や果物を皆で持ち寄ると、それなりの夕食に。メニューはともあれ、結局、わいわいおしゃべりしながら食べていると、夕食がどんなメニューでも美味しく感じるものだ。
食後はハンモックに揺られながらリラックス。スペイン人との巡礼は、旅の中で一番の肉料理にも出会え、充実した1日となった。彼らの陽気さと明るさに、巡礼旅に対する不安や恐怖が徐々に解きほぐされ、貴重な巡礼の機会を楽しめるような兆候が現れはじめた瞬間を迎える。