サンティアゴ巡礼 Day 10 ラバサル ~ コインブラ(28.4km)

サンティアゴ巡礼

足の負傷に悩まされながらも、早朝に起床、日の出前に出発、午前中の比較的涼しい時間帯に距離を稼ぎ、午後の早い時間帯にその日の目的地に到着、地元のグルメをランチで楽しむというリズムが少しずつ掴めはじめたサンティアゴ巡礼。

10日目は、ラバサルから大学都市の古都・コインブラまで 28.4 km の道のり。元々、コインブラは観光で訪れたいと考えていたので、1日休息日を設けることに。

1日オフをモチベーションにした巡礼は、脚の肉離れ、犬につきまとわられるなど、冴えない出だしから始める。1日の結末はいかに。

重いバックパックでの駆け足は危険

複数の道しるべに混乱

前日はドミトリーの部屋に1人で宿泊する形になり、静かに熟睡できるはずが、なぜか夜中に目が覚めトイレへ。そのせいか、寝起きもあまりよくない。

同じ宿に宿泊していたニュージーランド夫婦はすでに出発の準備が整って、「また後であなたに追い抜かされるわ」と言い残して巡礼宿を出発していった。

この日は6時10分に出発。右足は痛みがほぼなくなり、順調に回復している兆し。左足の踵は相も変わらず、靴を履く瞬間の摩擦が一番の激痛。

前日のうちに、巡礼宿のスタッフにこの先の巡礼路を確認していたが、宿から出ると、想定外の場所に矢印。素直にこの矢印に従えばよかったが、スタッフの言葉の方を信じたことで、ちょっとした災いに出くわす。

教えられたポイントまでたどり着くと、ファティマ巡礼までの矢印は、それらしき方向に向いているものの、サンティアゴ巡礼の矢印は、今まさに歩いてきた方向を向いており、引き返す格好になる。

スタッフの情報は、その矢印を無視して、左側の方向に歩いていくというものだったが、何も標識のない先を進む勇気が持てず。結果的にはこの道で正解だったのだが、リスクを冒さずに一旦来た道をそのまま引き返す。

犬との巡礼旅

時間を無駄にしてしまったと思っていると突然、黒い大きな犬が目の前に現れる。その大きさに腰が引けたが、性格はおとなしそうで吠えられなかった。内心ビビっている心を読み取られないように、うまくすれ違って事なきを得ようとしたが、犬が方向転換をして後を付いてくるではないか。

小さい頃のトラウマから犬は苦手。時折、犬が脇道に逸れるので、その瞬間を狙って少し歩くペースを上げたが、そんなペース配分を物ともせず、追い付いてくる。上り坂となっていたポイントで過度に早歩きをしたのがよくなかった。左足の太ももが肉離れのような症状を起こす。重い荷物を背負っての早歩きは危険。

足の痛みと引き換えに、何とか犬の追走からは逃れることができた。

引き返した道はラバサルの中心地を通っていく巡礼路。前日にスーパーや博物館に寄った際に、なぜこの道に気付かなかったのだろう。そのまま市街地を抜けて右折していくと、先ほど迷ったポイントの延長線上にたどり着く。やはり、あのまま左折していれば、今いるこの場所にたどり着けたと気づく。

時間のロスに加え、足を負傷してしまい、朝から幸先の悪いスタート。

山の合間から見えた朝日

そんな気持ちなだめるかのように、山間部から朝日が姿を現す。巡礼路で日の出の瞬間を目にすると、その日1日がうまく行きそうな気がする。この時点で、その思い込みは的外れになっていたけれども…。

一緒に巡礼することになった犬たち

Zambujal の村に入ると、また犬に遭遇。しかも今度は2匹。しばらく立ち止まって様子を伺ったが、先方も微動だにせず、こちらの出方を伺っている。幸い、先ほど出会った黒い犬と同様、おとなしく声を上げないのが救い。

視線を合わせぬように巡礼路を進むと、後から付いてくるではないか。2匹の犬を助さん、格さんのように引き連れ、まるで水戸黄門としてサンティアゴ巡礼をしているような格好に。まだ、他の巡礼者と一緒に歩いたこともないのに、その前に犬と一緒に巡礼をすることになるとは。

先程と同様にすぐに犬も離れていくだろうと高を括っていたが案外しつこい。村を出て、山道をどんどん進んで行ってもまだついてくる。嗅覚が優れる犬なので、元の場所には戻れるのだろうが、それでも結構な距離を移動。結局1時間くらい歩いて Refúgio das Cabaças に到着。

ここは、同じく巡礼者たちが拠点としているポイントのようで、通過していく同志のために、温かいコーヒーやお茶、ビスケットなどのスナックが用意され、それと引き換えに寄付金を募っている。ベンチがあったのでひとまず休憩。犬たちも同じように休みを取る。

丁度、太陽が照り付け、犬たちは横になって眠りに落ちていく。同じように1時間ほど村から歩いてきたのだ。きっと疲れているに違いない。ゆっくり休んでという優しい気持ちが芽生えるのと同時に、この瞬間を逃すわけにはいかない。

犬が寝息を立てているのを確認して、そっとベンチから離れて巡礼路に。ようやく犬たちとおさらば。犬に気を取られていたせいか、脚の痛みは気にならなかったが、ここにきて状態が少しずつ悪化。何度か、道路に座ってストレッチするも、思うように歩く速度が上がらず。

出発から時間が経ったので、そろそろ先に出たニュージーランド夫婦を捉えてもよい頃合いだが、この日の歩行スピードでは、彼らの姿すら捉えることができず。

突然に姿を現したヤギ

Poço 村に入ると、建物の死角からヤギが現れ、思わず声を上げて驚いてしまう。一体何なのか。この日は犬といいヤギといい、動物デー。ヤギの方がかなり警戒していたので、さすがにヤギが後から付いて来ることはなかった。

どうやら飼い主のおばあさんが散歩に連れ出しているところだった。おばさんは何か言っていたが、なまりが強すぎて全く理解できない。「驚かせて申し訳ない」というような主旨だったと想像。

ヤギに驚かされたついでに、休憩を取ろう。村のベンチで休む。どうも足の調子がよくない。入念にストレッチを施し、痛む患部にタイガーバームを塗る。そうこうしているうちに、前日に同じ宿に泊まっていた韓国人に追いつかれてしまう。今日はイマイチなペース。

それでもタイガーバーム効果で、体が少しずつ温まり筋肉の痛みが緩和されていく。

巡礼宿に忘れ物

出発から3時間ほどで Carvalhais de Baixo にたどり着き、ようやくこの日初めてのカフェ休憩。ご褒美にエクレアを頬張る。店内のアイスクリームが販売されている冷凍庫には鍵がかかっていなかったので、店主の許可を得て、ネッククーラーを冷却させてもらう。これが後々、猛暑の中で体温の上昇を抑えるのに効果を発揮する。

破損した状態で遺る水道橋

カフェを後にして、Orelhudo、Ribeira de Casconha、Pousada、Mesura と小さな村々を通過していく。それぞれの標識が、前進を知られてくれるのだが、心理的には全く進んでいないように感じられ、目指すコインブラが遠い。一般道と山道を交互に進む巡礼路になっていたが、一般道は太陽の照り返しがきつく、山道を歩いて引いた汗がすぐに噴き出る。先程立ち寄ったカフェでネッククーラーを冷やしていなければ、さらに体温が上昇して熱中症のリスクが高まっていただろう。

通過した村には休憩できそうなカフェがなく、巡礼路の木陰で一服。あまりに足の痛みに、コインブラに到着したらマッサージを受けよう。街の規模からしても、サービスが提供されているはず。

休憩中に携帯からチェックすると2軒ヒット。ワッツアップで連絡を取ると、1軒はクレジットカードが使用できず、もう1軒はカード払いが可能だが、この3日間は休業という。ツキに見放される。

おまけに携帯をいじっているときに、左手にしていた翡翠のブレスレットがないことに気付く。道中で落としたのか?この日の朝の出発から記憶をフラッシュバックさせる。しかし、朝一で顔を洗った時には手にはブレスレットがなかったと記憶が蘇る。そうなると、前日まで記憶を遡らなければならない。

思い起こすと、宿のプールに入る際に、水中で無くさないように取り外して、プールサイドの椅子の上に置いたままだった。

暑さによる疲労、脚の痛み、マッサージ店が見つからなかったのに加え、ブレスレットの紛失に気分が沈む。せっかく休憩を取ったのに、心理的に更なる疲れがどっと押し寄せる。

休息日は民泊に滞在

高台からのコインブラの街並み

コインブラの街はまだまだ先のようで、あまりの暑さに道中のスーパーマーケットに入り、店内のクーラーで涼みながら体を冷却。さらに飲み物を買って、体を内側からも冷やす。

高台からようやくこの日の目的地のコインブラの街並みが見渡せるところまでたどり着く。オレンジ色の屋根で統一された街並みは、整然として、タワーマンションなどがなく、歴史の趣を感じさせてくれる。

この地点から、この日の宿までまだ残り 2.7km の道のり。目標地点が見えたことでラストスパートをかけたいところだが、まだまだ長い道のり。

サンタクララ橋

コインブラの街の中心部への道に架かるサンタクララ橋を渡り切って、まだ残り 1.5 km の距離。日差しも強く、脚の痛みと疲労が限界に達する。携帯電話の充電レベルで言えば残り1,2%ぐらいまでのエネルギーしか残されていない。

民泊のキーボックス

翌日は大学都市で古都のコインブラを観光すべく、休息日とする予定を立てたので、街には2連泊。Airbnbで民泊を予約。2泊で料金は96.65米ドル(=約14,000円)

チェックインは午後3時以降だったが、事前にアーリーチェックインをリクエストし、午後2時に早めてもらった。しかし、実際には午後1時30分に民泊の家の前に到着。

扉の横にキーボックスがあり、有人の受け付けはなさそう。メッセージで共有された暗証番号でキーボックスを開けると、問題なく開いたのでそのまま入室。

最後の難所、民泊の階段

古い情緒ある建物だが、難点はエレベーターがないというところ。脚が限界に近いのに、鬼のように傾斜のある階段。この状態で重いバックパックを抱えて3階まで上る。脚が痙攣寸前。部屋に入るなり、そんままベッドに倒れ込みたかったが、体が汗だくだったのでまずはシャワー。翌日は1日オフなので、洗濯は後回し。

巡礼旅 No.1 の魚料理

着換えを済ませたら午後2時を回っていたので、そのままランチへ。グーグルでリサーチした近くのレストランへ。少し歩いただけなのに、せっかく浴びたシャワーが台無しになるくらい、再び汗だくに。何という気温。目指すレストラン Mar i a Sardinha に着くころには、巡礼を終えた後のようにTシャツが汗で濡れる。

レストランの前の広場に設置されていた霧吹き付きの扇風機の向きを変えてもらい、体を冷やす。残念ながらランチメニューは午後1時30分で終了。どうにかならないか交渉したが叶わず。日替わりランチメニューに近いものをメニューから教えてくれ、白ワイン500ml と注文。

お通し

お通しは定番のパンとオリーブに加え、人参のニンニク和え、ナスのピリ辛ペースト、揚げ物と軽いおつまみならもうこれで十分。しかし、本番はこれから。

店名にもある名物のイワシ。炭火で焼かれた焦げ目が食欲をそそる。味付けは塩のみとシンプルの極みだが、魚が新鮮な分、余計な手は加えなくてよい。ほろほろと崩れて取れる身を口に運ぶと、臭みもなく、身が締まり、ほのかに塩味が魚の風味を引き立てる。

魚の世界では主役にはならないイワシの美味しさをこれほどまでに実感するとは。お皿が運ばれて来た時は4匹も食べるのかと思ったが、ペロリ。

サイドディッシュのトマトやパプリカ、ジャガイモもオリーブオイルのシンプルな味付けなので、胃に重さが残らない。

イワシを食べ終えて満足していると、最後にもう1匹魚が運ばれてきた。尖がった頭部の特徴からあじだろうか。魚の名前を聞き忘れたが、こちらは、イワシより身の塊が大きく、食べ応えもある。味付けは同じくシンプルに塩のみ。

綺麗に完食

お皿が運ばれてきたときは1人でこんなにも食べられないと危惧したが、上述のように味付けがあっさりとしていたので、結局すべて完食。

魚料理に限れば、このレストランのメニューがこの巡礼旅では No.1

ボリューム満点の料理にワインで13.6ユーロ(2,300円)ランチメニューならば10ユーロほどとさらにリーズナブルになる。この日もグルメを楽しむという巡礼の目的が果たせて充実。

極楽のマッサージ

レストランで料理が運ばれて来るまでの時間に、近くのマッサージ店をリサーチ。タイマッサージを見つけたので食後に立ち寄る。

幸い、予約なしのウォークインでもすぐに施術してくれるという。おまけにコインブラの観光の中心、フェレイラ・ボルゲス通りの店舗だけあり、クレジットカード支払いも可能という。

巡礼旅で脚の疲労、痛みがピークと伝え、スポーツマッサージ90分(75ユーロ)を選択。1万円越えだが、巡礼に体のメンテナンスは不可欠と言い聞かせる。

タイ人セラピストによるマッサージは、特別に腕が優れているという印象は受けなかったが、いかんせんこの体。どんなマッサージでも効果が発揮しそうな状態。

マッサージで指圧される度、筋肉の痛みでうめき声が出るほど。食後の睡魔と筋肉痛との闘い。このマッサージの時間が永遠に続いてほしいと思うくらいの極楽浄土。

体の痛みや疲労が半減したと言っても過言ではない。次の大きな街となるポルトガル第二の都市・ポルトでもマッサージを受けよう。

マッサージ店を後にすると強烈な日差しにピークを迎える気温にうだる。数日前はこの時間帯に歩いていたとは今でも信じられない。

帰り道にアイスクリーム屋により体を冷ます。いつもならチョコレート系が好みだが、この暑さ、あっさりとしたレモンとフランボワーズで口当たり爽やかに。

ブレスレットの発見 配達の手配に成功!

民泊に戻り、紛失したブレスレットのありかを探るべく、前日に宿泊した巡礼宿に連絡を取ると、プールサイドで見つけたので保管しているという。

さすがに、取りに戻るのは賢明ではない。幸い、コインブラには翌日も滞在するので、誰か他の巡礼者に託して、コインブラで受け取りを提案したが、宿の従業員の家族がコインブラで働いているので、出勤ついでに届けてくれるという。なんという親切なオファー。

確かに歩いてくると、6、7時間の道のりだが、車だと20分少々。それほど大袈裟なことではないかもしれないが、なにせ頭の所要時間の計算が歩行軸になっている。民泊の住所を知らせて、待ち合わせの時間を決めたら、この日の任務はすべて終了。

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