サンティアゴ巡礼 Day 9 アルヴァイアゼレ ~ ラバサル(31.7km)

サンティアゴ巡礼

ポルトガルの巡礼の聖地・ファティマを出発してから数日。少しずつ自信を取り戻し、巡礼中に地元のグルメを楽しむ余裕が出てきた。この日は、少し距離を伸ばしてアルヴァイアゼレからラバサルまでの 31.7 km の道のり。前日までの猛暑が嘘のように、厚い雲に覆われた空模様の中、巡礼スタート。

太陽はいづこへ?濃霧の中の巡礼

霧靄の中の巡礼

巡礼のお役立ちアプリ・gronze.com でアルヴァイアゼレからの推奨ルートは、アルヴォルジ(Alvorge)までの22.7㎞。 この2日間、20km 前後の道のりを歩いてきたが、少し物足りなさを感じていた。生粋のアスリート魂に火が付いた感じ。

アルヴォルジからは9㎞ 先のラバサルが巡礼路の経由地となっており、この日は、そこまで 30km を超える道のりにチャレンジ。

前日は、久しぶりの他の巡礼者との出会いにワインを飲み過ぎたせいか、夜中に目が覚めてしまい、2度寝。さらに、クーラーのゴーゴーという音にも明け方、起こされ、余り熟睡はできず。よって目覚ましのアラームで起きるのが辛いが、この日の移動距離を考慮すれば、もたもたしてはいられない。

同じ宿のスペイン人の3人組のおじさんサイクリストは既に出発の準備に取り掛かっている。キッチンで温かいお茶を入れて朝食。日中は体を冷やすため、冷たい飲み物を口にする機会が増えるので、朝くらいは、温かい飲み物で胃を労わってあげよう。

身支度が整う頃には同じ部屋で寝ていた巡礼者たちも目を覚まし始めた。巡礼2日目から悩まされていた右足の裏のマメは、ようやく新しい皮膚が再生し始め、痛みが和らいできた。一方、左足の踵の痛みが変わらず。脚全体は、重たさも感じず、まずまずのコンディション。

6時10分、同じタイミングで宿を出たサイクリストのおじさんたちは一瞬にして姿が遠のいた。日が昇り始める時刻だが、この日は、巡礼では初めてのどんより曇り空。世界の終焉すら彷彿させるような暗い雰囲気。

出発してからは山道をひたすら上り続ける。どんどん雲に近付いているような錯覚で、さらには辺りに霧が立ち込める。ポルトガルから青空が奪われた時の絶望感たるものや。

山の天気なので変わりやすいのかもしれないが、この日の巡礼で通過する山の標高は、ピークで700m ほど。薄暗い雰囲気にテンションを下げられるが、巡礼としては照り付ける太陽を回避できるので、体力を温存しながら、できるだけ曇り空のうちに距離を稼ごう。

出発時は空模様のせいで肌寒さも感じたが、上り坂で徐々に体も温まり、歩くペースも加速していく。2時間は休憩を入れずに歩くことを目標に進む。汗の量は抑えられているが、やはり上り坂は脚に堪える。

出発から90分ほどした頃に、後ろから自転車で来た巡礼者・アントニオに追い越される。前日に一緒にレストランで昼食をした仲だったので、立ち話でもするのかと思いや、猛スピードで自転車で去っていった。「Bom Caminho」と叫びながら。これも巡礼の一期一会。

朝の定番、カフェ休憩

出発から2時間ほどでAnsião の町に入る。そろそろ休憩を視野にカフェ探し。しかし、この町の入り口から中心地までが案外遠く、カフェまでさらに2km ほど歩かなければならなかった。9時前にようやくカフェに到着。2時間30分、曇空のおかげでノンストップでここまでたどり着く。

山頂部には給水ポイントが設置されていたものの、それ以外は孤立した山道を歩いてきた印象。

このカフェはパン屋さんというよりケーキ屋さんに近い形態のため、全粒粉のパンはなく、甘いクロワッサンを頂く。カード払いもOKだったので、ポルトガル名物のナタも1つくらい食べようか迷ったが、過度に胃を重くしてはこの後の巡礼に響くと思い断念。

気付けば20分以上、カフェのテーブルに就いている。重い腰を上げるのが億劫になっているが、この日の道のりは30 km を超える長丁場。悠長に休憩は取っていられないのが現実。

青空のお出まし

曇空が続く巡礼路

Ansião を抜けても、しばらくは空模様は相変わらずのどんより。日差しが遮られているのは有難いが、やはり暑さにやられるとしても、青空の中を歩くほうが断然、巡礼の気分が上がる。

この日は、このままの天気が続くのかと思いながら、先を進み Netos 村に入る頃に、ようやく少しずつ雲が晴れ、太陽が姿を現す。あれだけ待ち焦がれていた太陽のはずが、いざ照り始めると、一瞬にして気温の上昇を受け止めるだけの心の準備が整っていなかった。

巡礼路にようやく広がった晴れ間

汗ばみ始めたおかげで、一気に疲労に襲われる。Casais da Granjaという村にたどり着いたときは10時30分を回っていた。ここでタイミングよくガソリンスタンドに併設されているカフェが現れる。迷うことなく入店。生絞りのオレンジジュースがなかったのが残念。この日は2軒立ち寄った両方のカフェでオレンジジュースにありつけず。

カフェの店内は、70年代で時代が止まったかのようなノスタルジックな雰囲気。音楽のカセットテープ、CDがまだ販売されている。懐かしさに浸っていると、酔っ払いに絡まれる。

「うちの常連だから許してあげてね」と、注文したエスプレッソを準備する店員さんは苦笑い。

カフェのテラスでコーヒーを飲みながら、しばらく汗が引くまで休憩。姿を現した太陽の照り付けが本格化し、地表からの照り返しも強くなり、朝方の肌寒さが幻かのように、本来の猛暑の巡礼に戻る。

休憩から1時間ほどでAlvorge の村に。曇空の中のスタートだったので、まだ余力はあるが、太陽が照り付ける中、アルヴァイアゼレから出発していたら、アプリが推奨するように、この村でこの日の巡礼を終えるのが賢明だろう。

前日の宿で出会った韓国人は、ここでこの日は一泊すると言っていた。しかし、実際にはこの村の宿が営業しておらず、後でラバサルの宿に再会することになる。

待ち受ける上り坂

巡礼の案内掲示板には、ラバサルまでの残りの道は、主に下り坂と表示されていたが、目の前にはかなりの傾斜の上り坂が現れ、脚が悲鳴を上げ始める。

幸運なことに、この日はここまで曇り空の気温の低い中でのスタートに加え、道に迷わずに巡礼路を進んでこれたので、難なくやってこれたが、それでも出発から既に7時間以上が経過。脚も徐々に限界に近付いているのが感じられる。

アップダウンの山道を駆け抜けてラバサルの町に入ったと喜んだのも束の間、まだその手前の Ribeira de Alcalamouque 村というオチ。ここから、この日の宿までまだあと 2.7 km ! 一直線の道のりは距離以上に余計に長く感じる。南中高度に達しようとする太陽は日陰すら与えてくれず。ひたすら前へ前へ

ラバサルの名産・チーズとワインで乾杯!

ラバサル名物のチーズ

一般道を進んでいると、思いもよらぬ場所で巡礼の道しるべの矢印が現れる。メイン通りから逸れていくような道順。宿はこのまま真っすぐ行った場所にあるが、どうする?

幹線道路を避け、翌日の巡礼路の予習と考え、矢印に導かれる。5分ほど歩いたところで、宿から離れていきそうだったので、グーグルマップを参考にして宿に。もう道に迷って戻ってくるほどの体力は残されていなかった。

巡礼宿「Albergue O Bonito」に到着。レストランも併設されており、店内は満員のお客さん。そのレジでチェックインの手続き。宿泊費は現金のみでドミトリー・16ユーロ(=2,720円)

ドミトリーのベッド

好きな部屋のベッドを選択してよいとのこと。ピークシーズンではないせか、あるいはGronze のアプリで、ラバサルは宿泊するのではなく通過するポイントとしてルートに推奨されているせいか、巡礼者の数は少ない。この日も、結局、1部屋を1人で使用することができた。ドミトリーなのに実質シングル部屋という幸運。

巡礼手帳へのスタンプ

チェックインをしてシャワーで汗を流したら、昼食。宿に併設のレストランへ。ランチタイムのピークが過ぎたのか、先ほどまでの満席の店内が閑古鳥が鳴く状態に。静かな環境の方が好みなので、ツキが回ってきた感じ。

日替わりランチを注文。前菜はスープかサラダだったが、名物のチーズの盛り合わせにできないか交渉したら、2つ返事でリクエストが通る。ランチの飲み物はもちろん白ワイン(500ml)。 

ラバサルの名物チーズ

ヨーロッパのチーズと言えば、フランス、スイス、オランダくらいが頭に浮かび、ポルトガルのチーズは蚊帳の外という印象が拭えないが、このラバサルのチーズは濃厚で、ワインにもよく合う。邪道かもしれないが、オレガノ入りのチーズがハーブのフレッシュさと熟成されたチーズの臭みがマッチして一番のお気に入りに。

付け合わせのパンとオリーブ、ワインとでこれだけでも大満足だったが、運ばれてきたメインの皿に目を疑う。

Cozido à Portuguesa

この日の日替わりメニューは「Cozido à Portuguesa」- 牛、豚の肉に、ジャガイモ、キャベツなどの野菜、さらにご飯が敷き詰められている一皿。運ばれてきた皿を受け取った際に、2キロくらいの重さを感じるボリューム。

チーズとお通しで気持ちお腹が満たされていた中で、このボリュームを胃に入れなければならない。少なくともこの日は7時間ほど歩いたので、消費カロリーを考慮すれば、これくらいは食べなければならないだろう。

お肉は柔らかく、それほど噛まずに済むので、満腹中枢が刺激されることなく、次々に口に運ばれる。味付けも濃くはなくあっさりとしてりるので、食べやすい。肉に飽きたら野菜と交互に食べ進めていくと、気が付けば、食べ切れるか心配だったお皿が空になった。

しかし、さすがにお腹が限界だ。別腹のデザートも付いてくるというが、こちらはお断り。このボリューム、前菜に名物のチーズの盛り合わせ、ワイン500ml を頂いて11ユーロ(=約1,850円) 思わずポルトガル万歳!と叫びたくなる満足度だった。

巡礼初の博物館へ

ラバサル博物館

さすがにあのボリュームのランチを食べてすぐに昼寝をするのはよくないと思い、近くのスーパーへ夕食と翌日の朝食の買い出し。その店の前に博物館。巡礼中は、暑さや疲労のせいで余り博物館や歴史的建造物を観光する機会がないので、せっかくなので立ち寄ろう。

入場料 2.7ユーロは、巡礼手帳(クレデンシャル)を提示すれば無料になるという。受付で働くダニエルさんはポルトガルの名門・コインブラ大学で日本語を専攻したということで、日本語で館内とラバサルの歴史について案内してくれた。

現在は小さな町であるラバサルだが、その歴史は長く、ローマ時代から別荘地として栄え、大浴場まで備えるくらい発展していたそうだ。遺跡にはモザイク画が遺されているが、調査以外の時は保護のため土で覆われているという。

博物館から数キロ先にこの遺跡が存在するが、さすがにこの炎天下ではそこまで向かう気にはならず。博物館自体はこじんまりとしているので20-30分もあれば館内を回れる。いつも巡礼後は疲れ果てて、食事を取る以外のことにまでエネルギーが回らないが、この日は初めて巡礼中に博物館も訪れることができ充実。

買い物を済ませて宿に戻ったら、敷地内のプールに入りリラックス。前日に続き、ニュージーランド人夫婦と再会。互いのここまでの巡礼の健闘をたたえ合う。

毎日、数時間も歩いているのに、ワインを飲んでいるせいか、腹筋に緊張感がなくなってきた気がするが、これはこの日のボリューミーなランチのせいとしておこう。夜はヨーグルトだけにしてこの日の巡礼を終える。

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