サンティアゴ巡礼 Day 2 アルベルカ・ド・リバテージョ ~ アザンブジャ(29.4km)

サンティアゴ巡礼

無事にスタートしたポルトガル縦断のサンティアゴ巡礼。2日目のルートはアルベルカ・ド・リバテージョ ~ アザンブジャまでの約30kmの道のり。初日の反省を活かし、出発時間を早め、午前中の比較的涼しい時間帯にできるだけ移動距離を稼ぐ作戦。2日目にして巡礼旅の醍醐味でもある素敵な一期一会の出逢いが訪れる。

ドミトリーの宿命

初日の宿を取ったアルベルカ・ド・リバテージョでは、巡礼宿がなかったのでホステルのドミトリーに宿泊。偶然にも同じ巡礼者のドイツ人と出会う。夜はこのドイツ人の話に捕まり、なかなか就寝できないでいたが、これだけでは済まなかった。

10人以上が宿泊できる2段ベッドが並んだ相部屋のドミトリー。しかし、夏休み前のオフピークのせいか、利用客はこのドイツ人と2人。少人数なので快眠を信じて、アイマスクと耳栓をせずに寝たのが失敗だった。

このドイツ人の巡礼者、ビール腹から予期はできたが、いびきもかなり豪快。奇しくもこの宿の名前は「Casa do Músico」-音楽の家。美しいメロディーではなく、いびきが部屋中に響き渡る。おまけに夜中2時過ぎに起きてキッチンに向かう物音で起こされる。初日にして早速、相部屋での滞在の宿命とも言うべき、他の宿泊客による騒音による睡眠妨害に遭う。2度寝の際は、アイマスクと耳栓をして、目覚ましが鳴るまで熟睡。

朝ごはん

普段はヨーグルトとフルーツで朝ごはんを済ませることがほとんどだが、巡礼中はエネルギーが必要となるので、この日は前日の残り物のレンズ豆も朝食に加える。

眠りから覚めないドイツ人を横目に、出発の準備を進める。前日は10時前に出発したのが反省点。午後の気温がピークに達する時間に歩いたため、体力をかなり消耗。

この日は2時間早めて午前8時に出発。

アルベルカ・ド・リバテージョ の朝

小さな町であるアルベルカ・ド・リバテージョ の朝は、ラッシュとは無縁の静けさ。2日目の巡礼は、アザンブジャまでの29.4kmの道のり。6 ~ 7時間ほどで到着できると想定。目的地には、巡礼宿・アルべルゲがあり、宿泊の受け付けは午後3時から。予約は受け付けず、ウォークインで来たもの順にベッドが埋まっていく方式。

あるトラック運転手との出会い

歩道との呼べない文字通り車道脇の道

アルベルカ・ド・リバテージョの町の中心地を離れると、幹線道路へ。区画された歩道はなく、文字通り道路沿いを歩く格好に、全く巡礼気分が上がらない。映画やドラマで見た巡礼旅は、長閑な田園風景に順路を示す黄色い矢印に沿って登場人物が歩みを進めていたのに…。

排気ガスまみれ、矢印もなく、他の巡礼者も宿で会ったドイツ人を除けば、前日に見かけたフランス人のみ。いま歩みを進めているこの道が巡礼なのか?とそもそもの疑問が沸く。

リスボン近郊の町ゆえか、首都を行き来するトラックの数も半端なく、道路脇を歩くのは身の危険すら感じる局面も。道路を駆け抜ける車両以外にも、脇道に待機するトラックも数えきれず。積載する荷物の準備が整うまで待機しているのだろうか。

グーグルマップが示す道順通りに進んでいたつもりが、列車の線路と幹線道路の交差点で方向を見失う。アプリは線路をまたぐような順路を示すが、横切れそうにない。なんとか、歩道橋を発見して順路に戻ってくることができたが、その途中、多くのトラックが停車する場所を通過しなければならなかった。

その際、1台のトラックの運転手と目が合った。じろりと目を付けられたような気がして、大したものは保持していないが、金品を奪われるのではないかと背筋が一瞬凍り付いた。身の危険を回避すべく、速足でその場から離れる。

トラックの運転手に “捕まった” 道路

再び幹線道路沿いを歩み始める。一応、ラインは引かれているものの、道幅にすれば50㎝ほどの歩道とも呼べないスペースを進む。アスファルトの状態もそれほどよくないので、よろけて線からはみ出せば、すぐ横を通り過ぎる大きなトラックにはねられそうになる位。再び、これは果たして巡礼路なのかと自問自答しながらひたすら前へ前へと進む。

すると、後ろから迫ってきたトラックにけたましいまでのクラクションを鳴らされる。一応、ラインの内側、つまり車道ではなく歩道側を歩いていたので、クラクションを鳴らされる覚えはないはず。それなのに、このトラックはクラクションを鳴らすだけで気が収まらなかったのか、すぐ横で停車した。

先程は金品を奪われる恐怖を感じたが、今度は連れ去られるのか、あるいは暴力を加えられるのではないかと一瞬、体が硬直する。進行方向に向かい、右側を歩いていたので、左ハンドルのトラックは、運転手が助手席側に身を乗り出してきた。一体何が起きるのか。

運転手の顔を見ると、なんと先程、目が合ったあの運転手ではないか!ここは実は巡礼路ではないからヒッチハイクでも申し出てくれるのか。いやいや、巡礼旅なので車に乗せてもらうわけにはいかないと、勝手に妄想を膨らませていると、紙切れを渡された。

トラック運転手からのメッセージ

そこには巡礼の無事を祈るメッセージ。「何これ?」 事態が上手く呑み込めない。この運転手は、トラックを停車した瞬間に、このメッセージを書いたとは思えない。あの目が合った瞬間に、もしこの巡礼者を道中で見かけたら、このメッセージカードを渡そうと準備していたのだろう。

そんな運転手の思いも知らず、犯罪者予備軍のような警戒心で運転手を見ていた自分自身に反省。運転手は、ポルトガル語を解さないと想像してわざわざ英語でメッセージを書いてくれたようだ。メモを渡され、さっと目を通した際に、ポルトガル語で一言二言付け加えてお礼を述べる。

片側一車線の道路で、トラックが長時間停車するわけにはいかず、時間にして1分にも満たないまま、トラック運転手は姿を消していった。

恐らく、人生でこのトラック運転手と出会う機会はもうないと思う。それでもサンティアゴ巡礼に出たことで、劇的に人生が変わることはないかもしれないが、こうした一期一会に恵まれたことに感動。気分が高まり過ぎて、歩くリズムも軽快になる。

たった1枚の紙切れ、それでもこの瞬間にサンティアゴ巡礼を達成できると確信が持てた。実際、この後、待ち受ける困難の度に、このメッセージの言葉を思い出すことになる。

Vila Franca de Xira の町並み

出発から2時間ほどで、Vila Faraca de Xiraの町に到着。初日の反省を活かして、定期的に休憩を入れることに。

巡礼に欠かせないコーヒー休憩

テラス席のあるカフェを見つけ、エスプレッソで休憩。お値段1ユーロ(=約170円) 円安のせいで、お得感は減ってはいるが、それでもまだポルトガルの物価は割安。

レストランのメニュー

レストランのメニュー表示にはスープ1ユーロ、メインの魚料理6ユーロと、スペインやフランスなど他の西欧諸国と比較してもリーズナブル。

テラス席でコーヒーを飲みながら、何度もあのトラック運転手から頂いたメッセージに目をやり、感動の余韻に浸る。

風光明媚なオリーブの木々

道路沿いのオリーブの木々

エスプレッソで一服したら、再び幹線道路沿いを歩む心構え。しかし、少し進んでいいけば、交通量も減り、道路脇には緑が溢れる。

オリーブの実

よく見れば、オリーブの実がなっているではないか。サンティアゴ巡礼の楽しみにしていた1つのことは、オリーブ畑を駆け抜けること。早速、2日目にしてオリーブの木との出会いにテンションが上がる。

気分が上がったのも最初だけで、このオリーブの街道、ひたすら長い一本道。時折車が通過しては、遥か遠くに消えて行く姿に、残された距離の長さを実感させられ、途方に暮れる。絶望的な気分をなだめるべく、時折、オリーブの木々が作り出す木陰で休憩。

道しるべがついに登場

長い長いオリーブ街道を抜けてると、「ようこそサンティアゴ巡礼へ」とポルトガル語、英語、フランス語で表示された看板が現れる。

リスボン周辺の巡礼路では見かけなかった標識。幹線道路沿いを歩いていた時は、これが巡礼路なのか、何度も自問自答してきたが、2日目にしてようやく巡礼が始まったような気分に。

サンティアゴ巡礼のアイコン、黄色い矢印

少し進むと、サンティアゴ巡礼のアイコンである黄色い矢印も姿を現す。たった1つの矢印が巡礼者になれた気持ちにさせてくれた。

サンティアゴ巡礼に乾杯

巡礼の矢印に沿って進むと、Vila Nova da Rainha の町に入る。丁度、お昼時で道路脇にはたくさんのトラックが停車している。万国共通、トラックが停車している付近には、安くて美味しいレストランがある!

町の入り口にあったレストランに入店するも、満席で予約席しかないという。1人なのでなんとかならないかと食い下がるも、断られる。つれないポルトガル人。

レストラン内を見渡せば、ビールやワインを楽しむ客の姿。中には、制服姿の人もいるが、仕事中だろうがお構いなしの様子。素敵な雰囲気だが席がないので仕方ない。店員の態度から、わざわざ待つより、別の店を探そう。

簡単に次の店が見つかるかと思いきや、気が付けばもう街の端っこまで来ていた。最後の選択肢。

ポルトガルの地方ではカード払いができないことがしばし

入り口にはカード払い不可の説明。現金は減らしたくないが、この店を逃せば、次はいつレストランに遭遇するか不明なので、ここに落ち着く。

ランチメニューは10 ~ 14ユーロ (=約1,700円 ~ 2,400円)。チキンが一番リーズナブルのようなので、手持ちの現金をあまり減らさないよう最安のランチメニューを選択。

飲み物を注文を尋ねられ、水、ビール、ワイン、コーラーから選ぶように言われ、ランチセットはどうやら、どの飲み物も同じ値段のようだ。よって迷わずワイン。

普段は赤派だが、この暑い中、歩いた後は断然キンキンに冷えた白!デキャンタで500ml 運ばれてくる。おいおいこれは本当に10ユーロのランチか?

飲み物だけ別料金を請求されるオチにならないか心配だったが、無用だった。昼からワイン、なんという贅沢な時間だろうか。それに値するだけ、十分に歩いてきたと自分に言い聞かせる。

チキンのランチ10ユーロ

お通しのオリーブでワインを楽しむ。普段は貴重に感じるオリーブも、ここまでの道のりであれだけのオリーブの木々を見てきたので、タダ同然に思えてきた。メインの鶏肉が運ばれてくる。円安は憎いにせよ、このボリュームとワインで10ユーロはお得。ポルトガル万歳!初日のケバブ&ピザ屋のパキスタン人シェフによるブロッコリーパスタと比較にならない。レストラン内はほぼ地元客。ローカルなグルメを楽しみながらという巡礼旅の目的も2日目にして叶う。

お会計の際には、店員さんが大きなバックパックを目にして「Boa Viagem(よい旅を)」と声をかけてくれた。

ほろ酔い気分でラストスパート

普段はほとんど飲まないせいか、500mlのワインで完全に出来上がった状態になってしまった。しかし、まだこの日の最終目的地のアザンブジャまでは6.5kmほどの道のりが残されている。

ほろ酔い気分に、脚はもう歩きたくないといと拒むが、それを許すまいと脳から足へ指令を送る。最初の2,3分は足取りが重たかったが、しばらくするとまた元のペースへ。

最後は休憩を挟むことなくアザンブジャの町までラストスパート。巡礼の矢印に沿って目的地まで到着。

巡礼宿・アルべルゲに初宿泊

巡礼宿の入り口

アザンブジャには巡礼宿があり、予約は受け付けないが、ウォークインで空きがあれば巡礼者を受け入れる。概ね予定通りチェックイン開始時刻の20分後に到着したので、まだベッドには空きがあり、無事にベッドを確保。

手続は宿のボランティア・カルロスさんが担当してくれ、この先は、Camino de Santiago に進むのか、Fatima に向かうのか尋ねられる。全くの勉強不足。後者が何なのか無知。

カルロスさんは、Fatima の大聖堂も人生の中で訪れる価値があると教えてくれ、Camino de Santiago のルートからは一旦離れるが、その後、合流できる地点があるという。次の宿泊地となるSantarém から Fatima のルートと分岐するので、そこで考えもまだ間に合うという。一度の旅で、Camino de Santiago と Fatima を訪れることができるならば一石二鳥。

クレデンシャルに押された巡礼宿のスタンプ

ドミトリーに入ると、先客の巡礼者たち。アメリカ人、フランス人、ロシア人、ニュージーランド人など国際色豊かな雰囲気に、ようやく巡礼に参加している気分を味わう。

ドミトリーの料金は10ユーロ。物価の高いヨーロッパにおいて、2,000円以下で宿泊できる巡礼宿の存在は強い味方。使い捨てのシーツと枕カバーが配布され、各自でベッドメイキング。

ベッドの準備が整ったら、手洗いで洗濯、シャワーを浴びる。足が妙に沁みると思いや、マメがつぶれているではないか。2日目にして足に負傷を抱えるとは…。

足の裏のマメ

残念ながら、足の負傷はこの先つきまとうことになる。

このマメを見たニュージーランド人の巡礼者が自身の薬セットからティーツリーオイルを取り出し、殺菌の為に塗るとよいと貸し出してくれた。絆創膏もくれ、靴の中で足の摩擦を抑えるため、バセリンを塗って靴下を履くのがよいとアドバイス。素晴らしい巡礼者の助け合い精神。

ビーサンに履き替えて外出。傷みから足を引きづりながらしか歩けなくなった。ひとまず薬局でワセリンを購入し、ランチがボリューム満点のワイン付きだったので、夜ご飯はフルーツとヨーグルトで軽く済ませる。

巡礼宿ということで、夜はみんなで宴会という雰囲気にはならず、夜9時を過ぎたら各自就寝の準備に入る。夜は思ったより冷え込み、ブランケットを持参しなかったことを後悔。宿に貸し出しサービスがあるのかも尋ね忘れてしまった。受付業務はボランティアによって運営されているため、午後7時以降は無人となってしまったので、手立てがなくなった。

バスタオルとポンチョを毛布替わりにして寒さを防ぎながら就寝。8人が同じ部屋で寝ることになったので、前夜の反省を活かして耳栓・アイマスク着用で就寝。

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