事前に入念なリサーチをして、滞在中にできるだけ多くの場所を訪れるというより、その時々の巡り合わせや出逢いを大切する旅のスタイルが心地よく感じる。それでも、ストックホルムの地下鉄のアートは前もって知っていたので、是非とも訪れたい場所の1つであった。
フランスやロシアなど、地下鉄の駅構内が美術館のようなアート空間はこれまでにも訪れたことがあったが、ストックホルムの地下鉄は予想を超える迫力感。それぞれの駅でテイストの異なるアートが繰り広げられる姿は、芸術好きならずとも、目を引くこと間違いなし。
地下鉄アートはブルーラインが中心

元同僚を訪れるスウェーデン旅、再会初日に一緒に地下鉄に乗って移動する機会があり、早速ストックホルム地下鉄のアートに出会えるを胸が高鳴る。駅構内に入ると、確かに無機質な駅というよりはタイルが張られ、照明にもアートが施されているとも言えるが期待していたほどではない。おまけに初めて利用した地下鉄の駅のテイストは、どこかハマムのような雰囲気。
期待外れと元同僚に告げると、ストックホルム地下鉄のアートの主戦場は、赤、緑、青の3つの路線のうち、青のラインという。

世界一長いアートギャラリーを謳うストックホルム地下鉄のアートは、その神髄に迫るツアーも開催されている。残念ながら滞在中は日程が合わず参加が出来なかった為、自力で各駅を巡ることに。
息を吞む迫力の駅構内

ストックホルムの地下鉄は、クレジットカードのタッチ機能に対応しており、1回の乗車運賃は43クローナ(=約685円 2025年9月現在)1回の支払いで75分間は乗り降り自由となっている。
地下鉄の中央駅でブルーラインへ乗り換えるために駅構内を進んで行く。列車のホームにエスカレーターでたどり着くと、息を呑む迫力のアートが待ち受けていた。
思わず声を上げてしまいそうな感動だったが、毎日の通勤や通学で利用している他の乗客にとっては見慣れた光景。足早に進んで行く人たちを横目に、アート空間をじっくりと味わう。
地下鉄を運営する公社のストールストックホルム・ローカルトラフィーク(SL)によると、ストックホルムの地下鉄は全長約110㎞、100ある駅のうち94駅に250人のアーティストによる作品が展示されている。
世界の多くの都市の地下鉄が、地下空間として整備されているのに対し、ストックホルムの地下鉄は、岩肌に沿ってコンクリートで覆われているため、洞窟の中に駅が存在するような空間が広がる。
アート活動を支援するため、中心部の7つの駅では期間限定のアート展を開催し、作品が年に数回入れ替わるという。アートは駅構内を単なる移動空間ではなく、美しさも兼ね備えると同時に、破壊行為などの犯罪の軽減にも寄与すると考えられている。
お気に入りの駅を見つける鉄旅

ストックホルム地下鉄のブルーラインは Västra skogen駅でAkalla駅とHjuksta駅行にそれぞれ分岐する。
事前に見たい駅のアートを調べて、そこを訪れるというより、目に飛び込んで来た印象を大切にしたい。よって、それぞれブルーラインの終点駅まで乗車し、各駅で停車するごとに、その駅構内のアートを眺める。
気に入ったテイストのアートがあれば、駅の名前をメモし、折り返してくる際に、その駅で降車し、次の列車が来るまで構内を散策しながらアート作品を楽しむことにする。
印象に残るトップ3
アートの好みは人それぞれだが、個人的に気に入った駅のアートを3つ紹介する。
- Salna centrum / Akalla 駅

トップ3と言いながら、はなっぱらから2つの駅をピックアップするという矛盾。各駅のテイストは全くことなるが、唯一、色を楽しむという観点から類似性があるので、2駅をまとめて紹介。
Salna centrum駅は、朝焼けのような鮮やかな赤とオレンジの中間くらいの色合いが駅構内全体を覆う。所々に緑で木々も描かれており、赤色系とのコントラストが映える。

一方、Akalla駅の駅構内は黄色一色。青色のボディの地下鉄が駅構内に到着すると、青と黄色のスウェーデン国旗のような色の組み合わせになる。
- Tensta駅

2つ目の駅はTensta駅 とにもかくにも壁画がエネルギッシュ
動植物が描かれ、地下にいることを忘れさせられるくらいの空間を演出してくれている。


スウェーデンを訪れたのは夏の時期だが、Tensta駅構内くらいの力強い描写があれば、冬の暗い時期、さらに、閉ざされた地下の空間でも活力を与えてもらえそう。
- Näckrosen駅

最後はNäckrosen駅 洞窟がカラフルにペイントされたり、様々なモチーフが描かれるストックホルム各駅の地下鉄アートにあって、石が埋め込まれて立体的なアートが印象的。

ぼこぼこと出っ張った石は、思わず手で触れてみたくなる衝動に駆られる。
この立体性を主役に引き立てるためか、全体の色味は白に近いトーンで控えめに抑えられている。
エレベーターもアート

駅構内に目を引き付けるアートが施されていれば、その施設の一部であるエレベーターにもアートが施されなければ調和がとれない。
カラフルに縁取りされたエレベーターは、思わずカメラのレンズを向けたくなる作品の一部に仕上がっている。
スウェーデン人の暮らしの足に欠かせない地下鉄。ストックホルムの地下鉄の駅は、単なる移動空間に留まらず、芸術作品が溢れる。乗車していると、次の駅はどのようなアート作品が待ち受けているのか、駅が近づくたびに高揚感に包まれる。
小学生の頃に鉄道のスタンプラリーをした頃のようなワクワク感。
都合が付けばツアーに参加して、造詣を深めるのも一手。あるいは、自分自身のお気に入りの作品に巡り合うため、じっくりと各駅を巡るのもお勧め。ストックホルム旅では、この地下空間の芸術に触れることはリストからは外せない。