「カーボベルデはどんな所だった?」と旅行後に尋ねられたら、美しいビーチに新鮮な魚、国民食のカシューパなどのグルメなどを紹介しながら大西洋に浮かぶ島国を端的に紹介することができるかもしれない。
しかし、風景や食文化よりも印象に残ったのは、カーボベルデの「No Stress」という哲学のような生き方だった。
足るを知る精神

カーボベルデのサル島のようなリゾートでは、ビーチタウン特有ののんびりした雰囲気が漂う。とはいえ、観光は島の一大産業。欧州の夏のバカンス中は、サル島を訪れる観光客もピークを迎えるため書き入れ時。
しかし、カーボベルデ人を観察していると、がつがつと一銭でも多く儲けてやろうという印象を全く受けない。家族が養える分を稼ぎ、静かに暮らせば、それで十分というような雰囲気すら漂う。
主要産業が観光に取って変わったが、もともとサル島では塩の精製や漁業を主流として生計を立てていた。その日食べる分の魚が取れれば十分。乱獲は将来の資源の先食いとなるのを心得ていたのだろう。足るを知る精神で、貪欲さがよい意味で全く感じられない。
eSIMなし旅
旅先では、SIMカードを購入する代わりにeSIMを使用するようになったが、No Stress のカーボベルデで、常にネットワークに繋がっている必要があるのか?という疑問が生じる。
もちろん、街中でちょっとしたリサーチが必要になる時にeSIMがあれば、簡単に調べることができる。一方、ネットワークに繋がっていると、否応なしにメッセージや望んでもいない広告を目にすることになる。
結局、10日ほどの滞在中はeSIMなしで過ごすことに決めた。もちろん民泊にはWi-Fiがあったので、外に出かける前に必要な情報はチェックしておき、外出中は携帯電話はカメラとポッドキャストを聞く以外の機能を果たさなくなる。これだけでも、ストレスが減り、カーボベルデの No Stress の世界に一歩近づけたような気分になる。
犬もストレスなし!?

サル島ではとにかく犬が目に付く。ペットなのか野良犬なのかは区別はできなかったが、その数、時折聞こえる犬同士の遠吠え合戦。
正直、犬は苦手なので、時々、後を付けられるとイライラと恐怖心が募る。しかし、No Stress 社会のカーボベルデ。人間がのんびりと暮らしているせいか、犬も齷齪している様子はなく、どこかマイペース。
カーボベルデに到着してから最初の数日は、その数と、その存在を避けるように街歩きをしていたが、そのうちに犬の存在も気にならなくなっていった。
ビジネスはマイペース

カーボベルデ・サル島で最も人気なレストランの1つ Restaurante Café Criolo 営業時間は午前7時から午後10時までで、いつも多くの観光客で賑わっている。
ランチを食べに訪れると、12時過ぎにお店に到着したにも関わらず、空いているテーブルは僅か。その上、昼食のオーダーは12時30分からしか受け付けないという徹底ぶり。No Stress のカーボベルデにしては厳しいルール。実際、どのテーブルを見渡しても、メニューが置かれているだけで、誰1人として食べ物にあり着けていない。
オーダー開始の12時30分には、レストランには入店待ちの行列。着席しているお客さんたちは料理の注文もしていないのに、入店待ちの人達はどれだけ待たなければならないのだろうか。埒が明かずに、待つのをあきらめる観光客の姿も。
そんなことはお構いなしに、レストランのサービスはゆったりとしている。12時30分になり、従業員がそれぞれのテーブルに注文を取りに行き、ようやくランチタイムがスタート。
午後1時過ぎ頃に、ちょくちょくと料理が運ばれてきて、お腹を空かせた客の胃袋が満たされ始める。
後の席に座ったフランス人カップルは注文をしてから1時間以上待っても料理が一向に運ばれて来ない。何度か店員を呼び、注文が通っているかチェックするも、「もうすぐ来る」との返事のみ。店員も待たせているという切迫感はなく、料理が出来ていないから仕方ないというスタンス。
このカップルは一体何を注文してそんなに待たされているのだろうと思い、気になって観察していると、1時間以上してようやく運ばれてきたのはハンバーガー。一番早く調理できるランチメニュー!と思わずツッコミを入れたくなった。
料理が来なくてストレスを感じていたのは客だけで、店員さんはピーク時とは言え、てんてこ舞いになっているというより、それぞれのペースで働いているような印象。
正直なタクシー運転手

カーボベルデ滞在中に日常生活でできるだけストレスを感じないような生活の過ごし方について、学びを得たような境地に達した。
その教訓を胸に、カーボベルデを旅立つ日。前日にワッツアップで予約しておいたタクシーがなかなかこない。No Stress とは言え、さすがにフライトの時間もあるのであまり悠長には構えていられない。
カーボベルデに来る前だったら、5、10分で早くもイライラが募っていたが、そのうち来るだろうと楽観的になっている自分自身の変化に少し驚く。とはいえ、さすがに約束の時間を20分過ぎたので、メッセージを送ると運転手はすぐに向かうと5分もしないうちに到着。
サル島の交通量では渋滞は言い訳にならないし、他の客の送迎が長引いていたのか?と考えを巡らせていると、運転手は「昨日メッセージしたのに、すっかり忘れてた」と。あまりの正直さに言葉を失い、笑うしかない。
こういったところも カーボベルデの No Stress 流なのだ。待たされたことをとがめても何か生み出されるわけではない。無事に運転手が来てくれて、飛行機の出発時間までに空港には到着するのだ。何もストレスを感じる必要はない。
それゆえか、運転手も下手な言い訳をする必要に迫られず、正直に約束を忘れていたと告白できる雰囲気に、カーボベルデを去った後も、この「No Stress」精神を胸に刻みたいと思わせてくれた。
