スペイン人たちとの巡礼に別れを告げ、ポルトガル第2の都市・ポルトで休息日を設けたら、巡礼旅はいよいよ中盤から終盤へと向かう。ポルトからは、内陸部を通る Camino Portugués Interior と 海岸沿いを進む Camino Portugués de la Costa に巡礼路が分岐する。ここまでの道のりは、海を見る機会がほとんどなかったので、迷わず後者のルートを選択。
果てしない一本道のウッドデッキの巡礼路

スペイン人の巡礼者たちと別れてから初めての巡礼。これまでは道案内は彼らに完全に頼り切っていたが、この日からは、再びアプリを参考にして自力で進んでいかなければならない。
2連泊した民泊は、広々とした部屋だったゆえ、荷物があちらこちらに散らばってしまった。こういう時は忘れ物が発生しやすいので、出発前に何度も点検。そのせいか、てきぱきと出発の準備がと整わなかったが、それでも6時10分に出発できたのでまずまず。
この日の最大の難所は、まずはサンティアゴ巡礼路のルートに戻ること。起点にはこだわらずに、海沿いのどこかの地点で巡礼の目印の黄色い矢印が見つかりますように。
早朝のポルトは日中の喧騒が嘘のように静けさに包まれる。旧市街の入り組んだ細い道は、時々迷ってしまうが、それでも出発から30分ほどで海沿いの道に出てくることができた。地図アプリで確認すると、巡礼路に沿っているようだ。
この日もどんより雲の空模様。朝日に照らされない分、汗の量は抑えられる。早朝から海沿いの道をランニングやサイクリングをしている地元の人達と行き交う形で、重いバックパックを背負って巡礼路の先を進む。
1日休息日を設けたが、左足の踵の痛みは相も変わらず。一体、いつになったらこれは完治するのだろうか。もしかしたら、巡礼中は治らないかもしれないとすら危惧しはじめる。

巡礼アプリ Gronze.com の推奨ルートはポルトからラブルジェの 24.5km の道のり。このルートは最後の1km 弱の道のりを海沿いから内陸の方に進み、翌日にその道から海沿いの道に戻る形となるため、時間と体力のロス。よって先のヴィラ シャまで目指すことに。
海岸沿いの道にようやくサンティアゴ巡礼の象徴である黄色い矢印を発見。巡礼路を進んでいる安心感に包まれたのも束の間、視線の遥か彼方にみえる煙突のような建物。後でオベリスクと判明するのだが、その建造物までのただひたすら伸びる一直線の巡礼路。その長さに絶望的な気持ちになる。
ここまでの巡礼路は、目標地点は見えず、上り下りを繰り返しながら、その日の終着地点に少しずつ前進してきたが、このルートは視線の遠い先に目標物を見据えながら、その姿が徐々に大きくなることで、進んでいる距離を実感しながら巡礼することになる。
歩き始めて2時間半ほど。最初の休憩のためのカフェを探す。海沿いには観光客向けのカフェが所々に立ち並ぶが、価格が観光客向けであると予測されるので、少し海沿いから中の通りに入ってカフェを見つけよう。
住宅地の中にカフェを発見。これまでのように、レジの近くで注文すると、どうやらテーブルに着席して、店員さんが注文を取りにくるのを待つのが地元の暗黙のルールのようだ。
このルールに従わなかったせいか、店員さんは少々不愛想に。外のテラス席で待機していると、巡礼者と思しき女性が相席をしてよいかと話しかけてきた。
ロシア人の両親の下、イギリスで生まれ育たった彼女は、ポルトからサンティアゴ巡礼をスタートさせたようで、この日が第1日目。以前、フランスの巡礼ルートを歩いた経験もあるので、今回が2回目のサンティアゴ巡礼という。本業はプロのクライマーということで、巡礼は朝飯前のようにも思える。
イギリスには留学した経験があるので、その話などで盛り上がっていると、たばこを吸い始める。幸い、風向きが逆だったので、煙の臭いがこちらに来ることはなかったが、この1本のせいで、この巡礼者とこの先一緒にしばらく歩くのか?と疑問が沸く。
態度には出したつもりはなかったが、ポルトから巡礼を出発した彼女は、巡礼手帳に出発地のポルトのスタンプが必要なため、観光案内所に行ってくると姿を消していった。個人差はあるが、つい先日まで一緒に行動していたスペイン人とは全く異なり、ドライな感じ。
休憩を取ったカフェからは、星の数ほどの魚屋さんとシーフードレストラン。地元のポルトガル人は、ポルトの観光地化され過ぎた旧市街地を避けて、この辺りに安くて新鮮なシーフードを求めに来るのだろうか。

しばらくすると、ウッドデッキの巡礼路がスタート。初日のリスボンの巡礼路を思い出す。時折、ビーチから離れるように回廊となっているが、基本的には1本道。生粋の方向音痴の巡礼者にとって、迷わないで済むのは有難いが、心理的には進めど進めど、一向に先にたどり着けないような錯覚に陥る。
こちらのそのような心理状況はお構いなしと言わんばかりに、この日は遠足の日なのか、数えきれに子供たちの数。ポルトガルも日本と同様に高齢化社会で、地方都市を巡ってきた巡礼路では子供の姿をほとんど見かけなかったので新鮮な光景。
重いバックパックに痛む左足、巡礼と格闘しているこちらとは対照的に、余り溢れるエネルギーで、遠足の日を楽しむ子供たち。そのエネルギーを分けてほしいくらい。
巡礼旅初のポンチョ&レインカバーの出番
辺りが霧がかってきたと思いきや、小雨がぱらつく。これまでも曇空や濃霧に見舞われたことはあったが、雨が落ちてきたのはこの巡礼旅で初めて。
持参して荷物がかさばり少し後悔していたポンチョの出番。さらに、バックパックにレインカバーをかけて先に進む。ポンチョを羽織ったせいで、若干蒸し暑さを感じたが、潮風が体温を下げてくれるせいか、汗が噴き出るほどではなかった。
ポンチョとレインカバーもお役目を果たせて満足したのも束の間、30分ほどで天気は変わり、最初の休憩から2時間ほど経ったところでAguela で2回目の休憩。海沿いのルートはカフェが見つけやすいので、いつでも休憩できる安心感。

海沿いの素敵なロケーションだが、雨は止んだとは言え、天気はまだまだ少し荒れ模様で、海から吹き付ける風が容赦ない。そのせいで寒さを感じるほど。
オーシャンビューのロケーションゆえか、コーヒーは1.2ユーロ(=約200円)1ユーロでコーヒー1杯にお釣りが返ってきていた田舎の村が懐かしい。海沿いの観光地なので値段が上がるのは仕方ないが、現金払いのみというのいただけない。
海沿いにはカフェの数も去ることながら、トイレもきちんと設置されているのが嬉しいポイント。これまでは巡礼中のトイレは問題の1つだったが、この先はしばらくこの問題からは解放されそうだ。

コーヒーブレイクでエネルギーをチェージしたところで、再び歩き始める。Foz de Rio Onda に到着すると、河口と海が交わる地点の自然の風景にマッチすような木造の橋が現れる。隈研吾氏の作品かのような木の使い方。
橋を渡って先を進むと、灯台のような場所が撮影スポットになっている。ドイツ人夫婦の記念写真を撮影してあげる。お礼にと、こちらの記念写真を撮ってもらったが、いまいち気に入る写真ではなかった。

青い空と海に映えるオレンジの屋根の街並みが見えてきたら、この日の目的地・ビラシャに到着。巡礼宿までは残り 1.5km だが、この道のりが長いこと。

終盤の足取りが重い状態では、大好きなオーシャンビューも最後のラストスパートの励みにはならず。
巡礼宿まで残り400m、300mと表示される距離は徐々に短くなっていくが、足取りは重たくなる一方。午後1時に巡礼宿に到着。
チェックインは午後2時からのようで、これまでの巡礼宿とは異なり、アーリーチェックインは受け付けないということだ。イギリス人の巡礼者が先に宿の敷地内で待機していたが、同じようにチェックインまで待つか、先に昼食を済ませるか。
汗をかいた姿は不快だが、巡礼宿から歩いて5分ほどの距離のところにレストランがあるので、ここは先に腹ごしらえ。
席について日替わりランチメニューを尋ねると、どうやらここはカフェのようで、レストランは2階。失礼して階段を上る。
満員の店内だったが、運よく1組が食事を終えて出て行ったので、テーブルが空いた。運には見放されていない。
ランチメニューはなく、アラカルトからスープ、イカのフライ、ワインを飲みたかったが一杯4.5ユーロと割高感が否めなかったので、ビールで代用。

スープから始められる食事は、胃に優しい。それにしてもこの店内の賑わいは何故だろうか。金曜日というのはあるかもしれないが、女子会やら、仕事の合間のランチ、カップルのデートと様々な人。熱いスープをすすりながら店内の客観察にふける。ほとんどのお客さんがおめかしした服装の中、ビーサンに半パンのスポーツウェアの巡礼者姿はちょっぴり浮いていているが、誰もそんなことは気にしていない、と信じよう。

メインのイカフライは冷凍のイカリングみたいなものが出てきたらどうしようかと危惧していたが、一応小さなイカの姿が丸々。フライにケチャップソースが少々安っぽい味わいになっている。これならフライよりもグリルの方が美味しくいただけたような気もする。お代金は14.6ユーロ(=約2,500円)。
巡礼者の数が急増

ランチを終えて巡礼宿に戻ると、入り口に置いていたバックパックは何事もなく、そのままチェックイン手続きに。先に到着していた巡礼者たちの手続きに便乗して、並んでいた2段ベッドから希望するところに荷物を置く。その後、パスポートを提示してチェックイン手続きをすると、この手続きが終わるまでは、本来はベッドに荷物を置いてはいけないとチクリ。

巡礼者が来るたびに、レセプションと客室を行ったり来たりする手間が省けると思い、よかれと思って取った行動に嫌味を言われてしまう。

2段ベッド10台の巡礼宿。チェクイン開始時刻からどんどんベッドが埋まり、夕方になってもまだ巡礼客が到着する。明らかにこれまでの巡礼路とは異なり、巡礼者の数が急に増えた印象。

シャワーを浴びて休憩をした後、夕暮れ時にビーチまで出かけたが、まだまだ日差しが強く、日焼け止めを宿に忘れてしまったので、そのまま少しだけ散歩して撤収。同じ巡礼宿にいた大学生ぐらいの巡礼者は海の中ではしゃいでいる。若さって素晴らしい。
昼にしっかりとランチを食べたので夜は軽くヨーグルトとフルーツのみ。
夜には巡礼宿のベッドはすべて巡礼者で埋まる。人混みを避けるためにも翌日はできるだけ早く出発しなればならない。その為にもこの日は早めに就寝。