スペイン人たちとの巡礼旅は、おしゃべりに明け暮れる。暑さを回避するための早朝の出発は、早起きが苦手な身としては一向に慣れないが、それでも1日の巡礼を終えることができるかどうかの不安や恐怖より、「今日も頑張って歩くか」と日々、ポジティブにスタートできるようになってきた。
巡礼15日目は、アルベルガリア・ア・ノヴァからサン・ジョアン・ダ・マデイラまでの 22.3 km の道のり。ここ数日の出発時の曇空から一転、快晴の天気の下で巡礼スタート。
線路沿いの巡礼路

セットした目覚ましより前に目が覚めトイレへ。その後、ベッドでゴロゴロしていると、他の巡礼者たちの身支度が始まる。
巡礼宿の冷蔵庫のおかげで、この日もフルーツ、ヨーグルト、温かい紅茶と巡礼に必要であろうエネルギーを朝食でチャージ。ゆっくり食事をしていると、前日と同様にスペイン人たちが先に出発。後から追いかける形に。
右足のマメは完治した模様なので、この日初めて絆創膏を貼らずに歩くことに。左足の踵は痛いまま。数日前に薬局で購入した絆創膏は、なかなかのお値段だったのに、踵の形状にフィットしないせいか、すぐにはがれてしまい、靴擦れが直に靴の踵と摩擦を起こし、痛みが走る。安い絆創膏で代用して痛みをこらえながら歩き始める。

久しぶりの朝から快晴の天気。この日は線路と共に巡礼路が続いていく順路。枕木と並行に進んだり、踏切を跨いだりと、線路が旅情を掻き立ててくれる。肝心の列車の姿は見かけず。地方都市のせいか、列車の運行本数もそれほど多くはないのだろう。
アプリの地図がいまいちよく読み取れず、線路沿いなのか、線路を越えてその先なのか迷っていると、地元の自転車に乗ったおじいさんが、親切に道順を教えてくれて事なきを得る。

出発から1時間ほどでフランス人のおばさんペアを追い越し、さらにもう1人のフランス人も視線に捉える。その視線の両脇のブドウ畑には、実が付き始めているのに気付く。
巡礼旅では楽しみの1つとなっている猛暑の巡礼後のキンキンに冷えた白ワイン!巡礼を始めた2週間ほど前は、実がなっている場所はほとんどなかったが、地域差のせいか、あるいは月日の経過のせいか、立派な果実が姿を見せる。どのようなワインの味になるのだろうかと思いを馳せる。
ブドウ畑に見とれていると、先をいくスペイン人たちに追いつく。スタートから時間も程よく経っていたので、休憩スポットを探すも、地元の人に尋ねど、辺りにカフェはないという。
結局、前日と同様に出発から3時間ノンストップで歩き続け、ようやく最初のカフェ休憩。

フレッシュオレンジジュースが飲めると、朝のテンションが上がる。カフェでもおしゃべりに夢中になっていると、後からもう2人のスペイン人たちが合流。いつもの6人全員集合となり、話が一向に止む気配はなく、気が付けば45分近く休憩していた。
これ以上長く休んでいては、気温が上がってしまうので、ようやく会話に区切りを付けて巡礼に戻る。一人で歩いている時は、15分休憩しようと先に決めて、その時間通りに出発することが多かったが、スペイン人には何分休憩しようと先に決めておく概念はない模様。
十分に体を休めて、たくさんおしゃべりをして満足したら再出発。齷齪していないところは見習いたい。
高床式倉庫に夢中

Oliveira de Azemeis の街に入ると中心の教会の外壁にはアズレージョが施され、アズレージョハンターとしては、目を引かれる。一緒に巡礼路を歩く5人のスペイン人のうち、2人は信仰心が厚く、巡礼路沿いにある教会の扉が開いていると、中に入ってお祈りを捧げてから先に進む。彼らは、これまでに5回ほどサンティアゴ巡礼をしており、いずれも信仰を深める目的だったという。
熱心なキリスト教信者であるが、他者にそれを強要することはなく、それぞれは目的を持って巡礼を楽しめばよいというスタンスは、一緒に巡礼路を歩くのに、信仰心のない身には心地よい空間を生み出してくれている。

照り付ける日差し、川が巡礼路の傍を流れてるせいか、湿度も感じられ、不快さが増していく。少しずつ体力が奪われ始めた頃、目の前に現れたのは見慣れない形状の建造物。
「Horreo(オレオ)」と呼ばれるイベリア半島北西部で普及した高床式倉庫という。物流や冷蔵庫が発達した現在では、その本来の役目は終えているケースがほとんどで、中には適切なメンテナンスが施されず、廃れてしまっているものもある一方、この地方の伝統建造物として、敷地内に維持され、門の一部として新たな息吹が吹き込まれている例もあり、この先の巡礼路では、このオレオを見つけては、写真を撮ったり、そのデザインに見とれたりして、楽しみの1つになる。
その構造の特徴の1つがネズミ返し。縄文時代の高床式倉庫と似通った構造は、地図の上では遠く離れた場所でも、人間の知恵は共通していたという点に気付かされ、余計に親近感が湧いた。
予想外に都会な街・サン・ジョアン・ダ・マデイラ
Cucujães の町を取り抜けると、すでにこの日の巡礼ルートの終盤に差し掛かる中、容赦ない上り坂が待ち受ける。町の中を進む道なので、木陰もない上にアスファルトからの照り返しが体力を奪う。
坂を上り切ったところで通称「コーラ休憩」 スペイン人は2回目の休憩はコーラーで乾杯するのが半ば儀式化している。残念ながらコーラーは飲まないので、フルーツジュースでコーラ休憩に同席。
サン・ジョアン・ダ・マデイラの街に入ると、大きなショッピングモール、マクドナルドにKFC、想像以上の都会に驚く。
巡礼旅では休息日以外はほとんど観光する時間はない。よって事前に次の訪問先の情報を入念に調べることはないため、到着してから驚きが待ち構えていることの方が多い。巡礼宿まで残り500m と表示されているが、この道のりが永遠のように長く感じる。
巡礼旅最安値の宿

サン・ジョアン・ダ・マデイラには巡礼宿(Acogida da Santa Casa da Misericórdia de São João da Madeira)があるが、ここ?というような場所。それもそのはず、老人ホームのような病院の一室が巡礼宿として、巡礼者に開放されている。料金は5ユーロ(=約850円)この巡礼旅の最安値!
病院の受け付けのような場所がチェックイン手続きを取り扱っており、少し分かりにくい。手続きを済ませたら文字通り “院内” を抜けて部屋に。
2段ベッド4台にシングルベッド1台の定員9名の相部屋のみの巡礼宿。キッチン、エアコンなし。トイレ・シャワーのみ。Wi-Fiは設置されているが至ってシンプルな部屋。

日が傾き始めると、西日を直接受け、さらに9人満員御礼となり、それぞれの匂いが部屋に充満し、巡礼路を歩くよりも我慢を強いられる。一晩だけと自分自身に言い聞かせる。
鍵は渡されず、正面玄関の出入りも自由にはできず、誰か扉の近くの人に開閉を頼むことになる。翌日は早朝出発のため、希望する出発時間を受付に伝え、扉を開けてくれる人を手配してもらう。
ショッピングモールで納涼

宿泊費用が安いだけに文句は言うべきではないが、正直、寝る以外に過ごすには快適とは言い難い。
昼食も兼ねてショッピングモールへ。冷房が効いていて快適そのもの。午後の最高気温に達する時間帯に涼みながら過ごす。太陽の高度が傾き始めたころに、スーパーに立ち寄り巡礼宿へ戻る。
室内はまさにサウナ状態。不快極まりなし。施設内の芝生の上でスーパーで買ったサラダなど夕食を取りながら涼む。外の方が風を感じられる分、快適。
翌日は、ポルトガル第2の都市・ポルトまで。そこでも休息日を設けて民泊に宿泊する予定なので、この日はこの宿で我慢の1日を過ごそう。