おしゃべりおばあちゃんとのAirbnb-リオデジャネイロ(2)

Airbnb

民泊を利用する利点として、住居人との交流が旅の良い思い出となることが挙げられる。

前回のブログで、リオデジャネイロで到着した民泊には80歳のおしゃべりなおばあちゃん家主が登場したが、1カ月の滞在中の思い出をいくつか紹介しよう。

朝2時までおしゃべり

ポルトガル語でコミュニケーションが取れると知られるや、おばあちゃんのおしゃべり仲間に勝手に入れられたような雰囲気が漂う。おばあちゃんは、オリンピック・パラリンピック観戦のため、寝起きは昼過ぎが多かったけど、“おはよう”という挨拶から競技の結果や試合のハイライト、ブラジル代表のパフォーマンス等、寝起き早々、話が尽きない。

テレワークの会議を少し抜け出して、コーヒーを煎れたり、トイレに向かう途中におばあちゃんにつかまったりすると大変。「あ、そうそう」と話しが始まり、20、30分捕まってしまうこともしばしば。

おばあちゃんの決め台詞は「a conclusão seguinte…」。直訳だと「つまり結論は…」と、話の終結に向かうはずが、このフレーズが登場してもなかなか話が終わらない。時には、話の途中で、さらにこのフレーズが登場して、一体いつ話が終わるのか途方に暮れることもあった。

ある日、お孫さんがおばちゃんを訪ねに来た。13歳のこのお孫さんは週に1,2回、顔を見せにくるおばあちゃんっ子だ。彼女が滞在している間は、おばあちゃんの話し相手となってくれるので、こちらに会話の矢が飛んでくることはないので、この訪問はちょっぴりありがたい。

夕方に到着したお孫さん、結局夜の23時くらいまで3-4時間おばちゃんと話し込み、お迎えが来たので、去っていった。さすがに、もうお孫さんと存分に話したので今日はおしゃべりも店じまいかと思ったが甘かった。

何かの拍子に話しかけられ、孫が帰って行ったのと報告を受ける。すると、そうそう私には他の孫もいてと、リビングに飾ってある家族写真を見せられ、そこから怒涛の会話が始まる。すでに仕事も終わり、寝るだけの状態だったが、もう夜も遅い。スポーツ観戦で昼夜逆転しているおばあちゃんとは違い、明日も仕事がある。

しかし、そんなことはおかまいなく、おばあちゃんの家族の身の上話が進んでいく。困ったことにリビングには時計もなく、携帯も寝室に置いてきてしまったので、時間の経過が分からない。

おばあちゃんの決めセリフ「a conclusão seguinte…」を何回聞いたことだろう。しかし、一行に話が終わる気配がない。深夜になり増々おしゃべりになり元気に溢れるおばあちゃんとは対照的に、一日の仕事やアクティビティを終えたこちらは、疲労と眠気に襲われる。

会話の途中、やんわりと話が終着点に向かうように仕向けるも、おばあちゃんには全くの効果なし。むしろ留まることを知らない。あまりの眠気に、首がコクリとすることもあったが、おばあちゃんはお構いなし。話を聞いてもらっているかどうかより、目の前に人間がいればいいのだろう。

残念ながら、眠気の限界だ。失礼を承知で直接、もう遅いし、眠くなったので寝ましょうと会話を遮ると、「私はオリンピックを観るために昼過ぎに起きたのでまだまだ眠くはないけど、あなたの明日の仕事の邪魔をしてはいけない」と、おばあちゃんは一瞬、気遣いをみせてくれたが、ここからまだまだ話は続いてしまう。

結局リビングを後にして寝室にたどり着いたのは午前2時。3時間近く、おしゃべりの相手を務めたことになる。もう一度思い出すと、その前におばちゃんはお孫さんと3-4時間話していたことをお忘れなく。恐るべしブラジル人おばあちゃんのおしゃべり好き。

おばあちゃんの寝室のシャワー

ある日、シャワーのお湯が出なくなった。リオデジャネイロも一応冬にあたるので、気温は20度前後。さすがに夜はお湯がでないと寒く感じる。おばあちゃんに相談すると、どうやら、給湯器の電源の電池が切れているようだとのこと。家には、もう1台、シャワーがおばあちゃんの寝室にあり、こちらは別の給湯器のシステムとなっているようで、お湯の出に問題はないようだ。

そこで、おばあちゃんの部屋のシャワーを使わせていただくことに。なぜか変にこちらが気遣ってしまう。家主と宿泊者の関係とは言え、女性の寝室にあるシャワーに足を踏み入れるのは、緊張してしまった。家主のプライベート空間に入るや、洗面台とトイレも一緒の空間で、広々としている。

メイク道具に加え、首が何本あっても足りないだろうというくらいの数のネックレスがある。気が付くとおばあちゃんが背後に。「すごい数のネックレスでしょ。好きなの私。これはどこどこに行ったときに買ったもので…」と、思い出話が始まる。

まずい、このままおばあちゃんのペースに飲み込まれると、50本以上はあろうネックレス全部の紹介に数時間かかってしまう。潔く、寒くなってきたので、シャワーを浴びたいと話しを強引に遮る。

すると、そうそう「シャワーの使い方を教えないといけないわ」とおばあちゃんが説明に張り切る。見たところ、蛇口が2つ。どう考えても、どちらかが水でもう一方がお湯。説明は不要だけど、一応おばあちゃん説明に耳を傾ける。お湯の出し方には特にコツはいらないようで早速シャワーを拝借。

扉を閉めてシャワーを浴びていたら、明らかに水の流れる音に反するように、ドアを叩く音。おばあちゃんがドア越しに何か叫んでいる。どうやらお湯加減の確認のようだ。無事にお湯が出ていると叫び返し、体を洗い終了。

おばあちゃんのプライベートな空間を共有したことによって、なんだか心理的に接近したような錯覚に見舞われたた夜だった。

独立記念日のおばあちゃん

ある日の夜23時過ぎ、寝る前に水を飲もうと台所に向かうと、台所に直結するドアからスーパーのショッピングカートごとおばあちゃんが帰宅。中にはこれでもかというくらい食料が詰め込まれている。

リオデジャネイロに滞在していた9月7日はブラジルの独立記念日。おばあちゃんは「大統領派と反対派のデモが激化して暴徒化すると、スーパーから食べ物がなくなってしまう。心配だから今夜のうちに買い物を済ませておいた。」とのことだ。

それにしても、80歳のおばあちゃんが自ら車を運転して夜11時に買い物に出かけるとは。いくら24時間空いているスーパーがあるとはいえ、ブラジルに住んでいたときには、治安を考慮して、こんな夜遅くに買い物にいったことなどなかった。恐るべしおばあちゃんの行動力。

購入してきた品々を冷蔵庫に収納しながら、明日は何が起こるかわからないから、おとなしくしておくのよと忠告を受けた。ブラジルは祝日だが、テレコミューティングの場合は、コロンビアのカレンダーで勤務しているため、通常通りの仕事で、家に居ると返答すると、おばあちゃんは安堵の表情を見せていた。

独立記念日当日、いつもと変わらず、滞在している部屋で仕事をしていると、半開きの部屋の扉をノックしながら、おばあちゃんが部屋に入ってきた。珍しく、朝から身支度をしている。

「この模様、反対になってない?」と振り向き背中を見せるおばあちゃん。そこには、独立記念日にふさわしい?ブラジル国旗。一瞬呆気にとられたが、質問を思い出し、ブラジル国旗の模様をチェックし上下逆さま、左右反対になっていないことを伝えると、何やらおばあちゃんは興奮気味。

「10時にはコパカバーナでデモが始まるから、今からだとちょっと遅れるわ。大きいカバンは持っていきたくないけど、いまのご時世、アルコールジェルやらで荷物がいつもにまして多くなるから仕方ない」と嘆いている。

あれっ?昨夜はデモが暴徒化したら危険だから、絶対に家に居なさいと言っていたおばあちゃん。それなのに自らはそのデモに参加しに行く模様。もはや「お前は行くんかーい」って心の中でツッコミを入れてしまった。

夕方、帰宅したおばあちゃんから、デモの様子の報告がてら、予想通りいつものように数時間にわたるおしゃべりに付き合う羽目に。ブラジルが独立を果たした1800年代からおばあちゃんの話が始まった時には200年近い歴史を一晩中語り尽くすのかと戦慄が走ったが、話の中心は、仲間とデモに参加して愛国心を感じられて満足できた1日だったというエピソードが中心だった。(つづく)

タイトルとURLをコピーしました